私たちが二人だった頃
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タンブラー - 350mlこの商品はpixivFACTORYで作られた商品です。サンプル画像は完成イメージのため、実物と異なる場合があります。 『狭間のラジオ 窓辺から』 「これは、私がまだ二人だった頃、とても美しい青年と、その飼い猫だった頃のお話でございます」 猫執事は、そう前置きをして、古いマイクの前に腰を下ろした。 窓の外では、夜明けがゆっくりと街を染めている。 藍色の空の底から、橙色の光が静かに溢れ出し、遠くの高層ビルの窓を一つずつ目覚めさせていた。 「ええ、皆様が不思議に思われるのも無理はありません。私は今でこそ、このように蝶ネクタイを締め、ラジオの司会などをしておりますが、かつては、ただの猫でございました」 カップの蓋を開ける音が、放送室に小さく響く。 「主人は旅の楽師でした。長い黒髪をひとつに束ね、古書店の二階を間借りして暮らしておりました」 青年は朝が苦手だった。 毎朝、窓辺の椅子でうたた寝をし、冷めたコーヒーを前に譜面と睨み合っていた。 猫だった頃の執事は、その足元で丸くなり、ときどきプレッツェルの欠片をもらうのが日課だった。 「主人は、それはそれは美しい人でした」 猫執事は、懐かしむように目を細める。 「もっとも、本人はまるで無頓着でして。演奏旅行から帰るたび、鞄には金貨よりも古本が増え、服よりも楽譜が増え、私への土産は決まって奇妙な外国の魚の缶詰でした」 ある冬の朝のこと。 青年は、窓辺でバンドネオンを抱えたまま、ぽつりと言った。 『なあ、お前。もし猫が人の言葉を話せたら、どんな話を聞かせてくれるんだろうな』 その頃の執事は、もちろん返事などできない。 だから、ただ青年の膝へ飛び乗り、その黒い袖に顔を埋めた。 青年は笑って、猫の頭をひと撫でした。 『そうか。話したくないなら、それでもいい』 猫執事は、そこで言葉を切った。 放送室には、遠い列車の音だけが聞こえている。 「その後、何があったのか。それはまた、別の夜のお話でございます」 彼は窓辺へ歩み寄る。 朝焼けの向こうには、今もあの青年が歩いているような気がした。 片手に楽器のケースを提げ、もう片方の手には焼きたてのプレッツェルを持って。 「ただ、ひとつだけ確かなことがあります」 猫執事は、タンブラーを掲げて微笑んだ。 「猫は、案外、ずっと昔から主人の話を聞いているものなのですよ」 そして、ラジオのランプが静かに消える頃、誰にも聞こえないほど小さな声で付け加えた。 「……もっとも、あの人は、最後まで私を飼い猫だと思っていたのでしょうけれど」📻🐈⬛☕
発送予定日
- タンブラー - 350ml(350ml - 合成紙)2026-08-03



