手紙にまつわるアンソロジー
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【企画・編集】雨庭有沙 【装丁】目榎粒子さま 手紙にまつわるアンソロジーとは? あなたは最近、手紙を書いていますか? 手紙にまつわるさまざまなエッセイを一冊にまとめた、嬉しかったり寂しかったり、そんな一冊をお届けします。 こんな話、あんな話……読んでみるとあなたも手紙を久々に書いてみたくなるかも? そんな11人の書き手による珠玉のエッセイ集をどうぞお楽しみください! (装丁:目榎粒子さま) 手紙にまつわるアンソロジー全11作品紹介! 「嘘が下手なことを忘れていた」幻ノ月音 様 私はなんてことない、と笑いながら伝えたつもりだったが、姉の顔が凍りついたのが分かった。「返信がおかしかったから」と、後になって姉はそう言っていた。いつものやり取りから簡単にバレる私の平静って砂利道よりガタガタで、私は嘘がつけない人間なんだと改めて自覚した。 春のある時期に筆者の身に起きたとある重大なこと。それを家族に伝えた時、その日に観た映画……「手紙を書こう」と思い立ち、そっと投函する。 「A先生より」阿部蒼星 様 中学校の卒業式の後。当時担任だったA先生が、教室に集まったクラスの皆に一冊の冊子を手渡した。卒業アルバムより薄く、通常授業で使う様なノートよりは厚い。手元が少し重く感じるそれを開くと、中には一ページに三日分ずつ日記の様な文章が綴られていた。 のんびりしていて表情ゆたかなA先生がクラスの皆に渡した冊子。教室で起きたいろんなことが綴られた内容に、筆者は自分の名前を見つける。 「はじめて他人に叱られた」常世田美穂 様 謙遜するのがいいから、ぐちゃぐちゃにまるめて燃やしちゃってください(笑)なんて冗談みたく笑い飛ばすのが正義なのだと思い込んでいた。わたしは、どんな感情でいたのだろう。 アニメ雑誌をきっかけに「文通」した相手についつい書いてしまった言葉、相手からもらった言葉……苦いけれど、忘れられない手紙の話。 「眠る手紙が教えてくれたこと」目榎粒子 様 暗い言葉ばかりが並ぶ手紙の束を見ていると、一つ一つの封筒が、その時点での私の感情の墓標のようにも思えてくる。とはいえ、その白い墓標にどこか爽やかで前向きな諦念を感じるのも事実で、手紙を書くことを通じて自分の感情の葬送が済んでいるようなところがあったのだろう。 相手に向けて書くけれど、読んでもらえなくてもいい、それが手紙。小説、言葉……「書くこと」以外に筆者にとって支えになるものとは。 「野上豊一郎・野上弥生子夫妻の関係資料について」矢田部健史 様 二〇二二年二月、ヤフオク!に野上家から出た漱石の書画作品や夫妻宛の書簡などを撮影した資料の束が出品されていた。封筒には「先生 父さん 弥生子」とあり、野上弥生子の直筆だと思われる。暴騰したため、早々に撤退したが、同時出品されていた弥生子の肖像写真十九点はあまり値上がりしなかったので、運良く落札することができた。 夏目漱石門下の野上豊一郎(臼川)・野上弥生子夫妻の旧蔵資料が手元に数点あるという筆者が、彼らの書簡から関係性を推測していく。 「届かなくてもいい手紙」此瀬 朔真 様 昔から宵っ張りなきみのことだから、この挨拶が正しいと思う。 この手紙を読んでいるのも、きっと深夜だろう。 もちろん、この手紙を書いているのも、深夜だ。 そういうわけで、こんばんは、昔の私。 筆者が昔の自分に宛てた手紙には、かつての筆者の持った不安や憂鬱をなぞりながら「お詫び」にひとつだけ伝える。「きみがするべきこと」を。 「感想を伝えられれば、それだけで」よく寝るアザラシ 様 しかし、その時も私は、彼へ手紙を出すことができなかった。理由はなんともシンプルで、字を綺麗に書くことができなかったから、だ。今振り返ると平均的な字だったとは思うが、「こんな字の人物だと思われたくない」という無駄なプライドが出てきてしまい、手紙を書くことができなかった。 熱しやすく冷めにくい……そんな筆者にとっての唯一無二の「推し」への想いと「ファンレター」との出会い、書くことへのためらいと、今度こそは。 「十六時三十六分」地衣子 様 ある夜、友人の恋愛話を聞いていて、手紙を書きなよ、とアドバイスしたことがあった。ふとしたきっかけでかつての同級生のことを思い出して、寝ても覚めても彼のことしか考えられなくなってしまったが、卒業以来彼には会っておらず、連絡先を何も知らないという。分かるのは実家の場所だけ。 これまでの半生の折々で手紙を書いたりもらったりしてきた筆者が、絶賛片思い中の友人に「手紙を書きなよ」と励まし、傍ら淡い思い出を振り返る。 「支えてくれたあの人のこと」水純みを 様 叔母の手紙はいつだって勇気や元気をくれる特効薬みたいなものだと思っている。そばで支え続けてくれたからこそ何もかも分かってくれている、唯一無二の存在だ。そんな叔母が期待と願いを込めて書き続けてくれた手紙の通りの自分に、今、わたしはなれているだろうか。 LINEやメールで簡単に済ませられるこの時代にあえて手紙を書くという筆者が、叔母からもらう手紙の筆致や内容に励まされ自分を振り返る。 「燃やすゴミにした手紙」翠雪 様 手紙には人がきっと宿る。労力、時間、心、その他諸々を惜しげもなく費やされた一通は、差出人の分身とも言えるだろう。文通は、小人になったお互いが、住まいを行き交うものである。 「手紙」にまつわる苦い記憶と、筆者が思う「手紙」の持つ性質。「一生もの」となる一通を自分の分身として投函する。燃えてもいいと思いながら。 「あなたへの手紙」雨庭有沙 小説、脚本、短歌……形は違えど、文章をアウトプットする作業というのは誰かに手紙を書く時と似た感覚になりませんか? 読み手に伝わるように一生懸命言葉を紡いでいくことは、読んでもらえますように、読んでくれたらどんな表情をしてくれるだろうか、そう思いながら便箋にペンを走らせる時と同じ感覚を私は持ってしまいます。 「手紙」をテーマにした展示、亡き父が最期にくれた「手紙」、筆者がこのアンソロジーを企画しようと思ったきっかけ……あなたに伝えたかった。 目次 嘘が下手なことを忘れていた /幻ノ月音 A先生より /阿部蒼星 はじめて他人に叱られた /常世田美穂 眠る手紙が教えてくれたこと /目榎粒子 野上豊一郎・野上弥生子夫妻の関係資料について /矢田部健史 届かなくてもいい手紙 /此瀬 朔真 感謝を伝えられれば、それだけで。 /よく寝るアザラシ 十六時三十六分 /地衣子 支えてくれたあの人のこと /水純みを 燃やすゴミにした手紙 /翠雪 あなたへの手紙 /雨庭有沙 あとがき・著者プロフィール