夏空はソーダフロート
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A5/P72/700円(送込) オリ主♂×デイヴィス・クルーウェル 全6話収録 (本文より) 冬の終わりを惜しむような雪が、静けさだけをその身に纏って、降りそそぐ。 息を止めたような世界の中、時だけがゆっくりと過ぎゆき、閉ざされた窓の内側で、雪よりも白いデイヴィスの肌が目に毒だ。 その上に点々とついた赤黒い痕も、自分がつけたものならば、きっと扇情的に映るのだろうが。 しかし、実際のところはというと、だ。 この痛々しい傷痕は、オバールのつけたものではない。 故に。 オバールはしばらく無言のまま、しかし、確かに怒っていた。 彼は、その身の内にふつふつと湧き上がる腹立たしい気持ちを抑えつけるのに、呼吸を数秒止めることさえした。 デイヴィスは間違いなくオバールのものであるというのに、誰とも知らないような相手がこんな風に彼の上にその存在の痕跡を残していいはずがないのである。 加えて言うならば、そうなった原因はデイヴィスの軽率さであろうことに呆れてもいた。 「どうしてビーンズデーでこんなに傷だらけになれるのさ」 確かに、その年の怪物役に選ばれたら、農民役から豆を投げつけられたりはするものだ。 そういうイベントなのだから、それ自体に文句はない。 けれど普通は、農民役の者だって、相手が――豆をぶつけられる側の怪物役が――怪我をしないように加減するものだろう。 それだというのに、デイヴィスの身体はどこもかしこも痣だらけで、 「俺だけ狙われた」 と、不服そうに唇を尖らせている。 当たり前である。 オバールだって、怒り心頭だ。 とはいえ、 「こんなにちっちゃいのに?」 ついつい、余計な疑問が口をつく。 「身長は関係ないだろ!!」 デイヴィスは不機嫌をさらに濃くするけれど、 「そうかなぁ……」 同学年のオバールより、頭一つ分小さいのだ。 上級生からはもっと小さく見えるだろう。 そんな相手をわざわざ選んで狙おうだなんて、普通は思わないはずだ。 (可哀想になってくるしさ) デイヴィスが本当は誰よりも気の強い少年だと知っているオバールでさえ、遠慮の気持ちが働くのである。 それに、もっと別に、純粋な理由もある。 「やりにくいと思うけどなあ。的が小さくて」 「なんだと?」 「怒るけど、自覚はあるんでしょ?」 「平均よりうんと可愛いだけだ」 「それを世間ではちっちゃいって言うんだよ」 デイヴィスが動く度に揺れる髪を撫でてやりながら、オバールは口元だけで笑う。 「ところで、デイヴィ。君が狙われた原因に、思い当たることがあるんだけど」 「思い当たること?」 「どうせ目立つところにいたんでしょ? 君のことだから」 逃げ隠れするのをよしとしないその性格は、本来ならば、評価されるべき美点のひとつのはずなのだけれど。 「俺はどこにいても目立つんだ」 というデイヴィスの主張は、 「正論のようで正論じゃないんだよなぁ……」 デイヴィスが人目を引く容姿をしているのは、確かに事実だ。 彼にとって、自分が注目されるのはいつだって当たり前のことで、自然な状態なのだろう。 オバールだって、そんな彼にすっかり惚れ込んだうちの一人なのだから、文句のひとつも言えないけれど。 「鬼ごっこの間、君は何をしてたの?」 「何って?」 「君だけ狙われたっていうけど、自分から挑発したんじゃないの?」 「そんなことしない。俺はただ、ゲームを盛り上げただけだ」 「じゃ、自業自得だと思うけど」 デイヴィスが具体的に何をしたのかは分からないけれど、 (挑発してないわけがないんだよなぁ) このデイヴィスが、大人しく追われているだけで済ませるはずがないのである。 「何か言った? そんなへなちょこ魔法弾じゃ当たらないとか、装備がダサいとか、見え透いた罠にかかる方が悪いとか」 「聞いてたのか?」 「そんなわけないでしょ。っていうか、今の、どれを言ったの?」 「どれって、全部」 頭が痛い。 それでよくもまあ、『挑発はしていない』などと言い切れたものだ。 「だって、事実だろ?」 『何が悪いんだ?』 とでも言いたげに、デイヴィスは首を傾げるけれど――事実だからといって、なんでもかんでも思った通りに口に出していいわけではない。 「そんなこと言ったら、そりゃ狙われるに決まってるよね? バカなの?」 「こんなに可愛い一年生を捕まえて、集団で狙うやつらの方が馬鹿だ」 「……あのさあ、デイヴィ」 言いかけて、頭を抱える。 ――駄目だ。 この幼馴染みは、自分の言動を反省する気配がまったくない。 (一部抜粋)