Can you eat me? 2
Physical (worldwide shipping)
- 700 JPY
Physical (ship to Japan)
- 700 JPY
A5/クルモゼ/全年齢/700円 (本文より) 「ほんの可愛い下心じゃないか」 と、クルーウェルはこめかみに浮いた感情を隠すように手をやった。 無意識だかなんだか、自分は生徒のいる廊下でも平気でこちらの尻を撫でていくというのに、 「おい、ルチウス。お前も流石に身勝手だと思うだろ? なんだよ、『すみません、蚊が』って! いくらなんでも言い訳が雑すぎる!」 「ォア」 「……うるさい。別にあの場で押し倒したってよかったんだぞ、こっちは。だいたい、生娘でもあるまいし――……」 「ォァア」 「誰がヘタレだ。紳士的と言え」 まったく。 この猫は、主人が不在の時に世話をしてやっているのが誰だと思っているのか。 「……これだから猫は」 犬と違って恩知らずで困る。 肩を竦めたクルーウェルは、わざとらしく首を左右に振ってみせると、冷凍庫から二リットル入りのアイスクリームを取り出した。 バター風味の効いたラムレーズンフレーバー。 薔薇の王国に本社を持つD&Dアイスクリーム社が、毎年この時期にだけ売り出す商品である。 手に入る期間は三週間、そのうえ全世界でも取り扱いがあるのは数店舗というレアアイテムで、一ヶ月前から通販予約をしてまで、わざわざ取り寄せている品だ。 配達先の変更を忘れたせいでうっかり自宅に届いてしまい、そのおかげで強欲な誰かさんに三分の一ほど攫われてしまったが。 だがそれだって、 『いくらなんでも食いすぎだろう』 と言うに留めてやったのだ。 そもそも、これを取り返すのに一時間も玄関先で彼女と口論する羽目になったのだって、忘れてはいない。 キャンキャンと仔犬の吠えるようなあの喧嘩を思い出せば、 『一体全体、親はどんな躾をしてるんだ』 とすぐ喉元まで出掛かるが、彼女の親の顔ならばよく知っている。 ――なんならば、自分の親のそれよりも。 (一部抜粋)