FLAVORED4YOU
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クルモゼ/A5/P32/¥700 Can you eat me? シリーズの無配+書き下ろし纏め本です。 クルとモゼとごはんとおやつ。 (本文より) すっきりとした細身のシルエットのシャツに、深く沈み込むような赤のタイ。気に入りらしい濃いグレー地のベスト。その上で静かに主張する黒のストライプは、上質な光沢を添えている。 長くのびた足下を戒める革は、艶のある白。踵を支える『女王の赤』はすらりと滑らかな装いで、若々しい主人に極上の華を咲き誇らせていた。 下品にならないぎりぎりのところで個性を主張する。それが変わらず彼らしい。 変わったことといえば、眼鏡くらいか。 もっとも、彼の視力に問題はなく、あくまでもファッションの一部として取り入れているということらしい。 ――……さて、 私はあの子になんと声をかけたものだろうか。 などと悩んでいる間もあればこそ。 白と黒、ツートンカラーの髪がつくる影の中、俯き加減でページを繰っていた若者は、こちらが声をかけるより前に、トレインの存在に気づいたようだ。 読んでいた本から、ぱ、と顔を上げる。 どれだけ背が伸びてもどこか幼さの消えない顔立ちに満面の笑みを浮かべて、 「モーゼズ! お久しぶりです!」 と駆け寄ってくるものだから、トレインは少しばかり目を細めて、 「やあ、デイヴィス」 吹き出すかわりにコホンと小さく咳払いをしてみせた。 「元気そうで何よりだ」 「はい。おかげさまで」 「仕事は上手くやれているかね。この国での生活は――……」 「嫌だな、先生。少しは俺を信用してください」 「難題だな、極めて」 最後に会ったのは、二年前だろうか。 就職祝いに買ってやったピアスが白い耳朶の上で、いやに扇情的だ。 少なからず好意のある――邪な意味も含めて、だ――相手。そのくせ滅多に顔を合わせる機会もない――それでもこうして年に数度は感情を揺さぶってくる男。 彼がシルバーフレームの細い眼鏡を外して胸ポケットに差すと、幼さを増した――少年時代に見慣れた顔があらわれる。 トレインがそれに気を取られている間に、クルーウェルの腕が慣れた動きで腰にまわった。 「独り暮らしも快適なものです。ボスも――まあ、変わった人ではありますが、」 「君に『変わった人』だなどと言わせるとは、」 「ええ、少なくとも、あなたに理解できるタイプではありませんね。会わない方がいい」 幼い頃には一歩後ろをついてくるばかりだったものが、いつからそんな仕草を覚えたものか。 「何か失礼なことを考えていますか?」 「いいや、何も」 「知っていますか? あなたは昔から隠し事が下手だと」 「君にだけは言われたくない」 じゃれ合いのような言葉を交わし、クルーウェルの影の内側を歩いた。 彼の座っていた席へと案内され、勧められるままにパンケーキを注文する。それからついでに、エスプレッソも。 「流石の先生も、ここのカフェは初めてでしょう?」 「去年はまだ工事中だったろう、君とここで会ったときには」 それだから、今年はここで会おうと決めた。 クルーウェルが楽しみだと言ったから。 「ああ、そうでした。でも結局、運が良かったんでしょうね。オープンしたばかりの頃は、二ブロック先の角まで行列が続いていましたから」 「そうか」 「まあ、それも最近は落ち着いてきました。限定フェアでもしていない限り、待たずに座れる」 「なるほど、今日もまた運が良かった、と」 「ええ。一週間後だと、また混むでしょうから」 ハート型のフォーチュンクッキーは甘酸っぱいストロベリー風味。ミルクチョコレートにお好きなホットドリンクをセットにして、七百マドル。 ピンクと白で飾られた新商品の予告ポップを前に、ハイティーンの少女達が足を止めては写真を撮っていく。 「ね。今で良かったでしょう」 「……そうだな。娘は喜びそうだが」 (一部抜粋)