したたかさを思いがけない 背徳怪奇な不条理譚
彼女が夜な夜な酒場に通う目的は、ひとりの老女だった。
いつもの酒場の最奥の席に、まるで置物のように鎮座する通称・美子先生。
かつては皆に慕われていたが、今では誰からも相手にされなくなっている。
誰も座ろうとしない美子先生の向かいの席を、彼女は今夜も独占する。
座席が流動して息づくこの酒場で、最奥だけが閉じられる。
そうしてふたり飲む時間が、彼女にとってはかけがえのないものだった。
けれども、そんな夜の連鎖が、やがて彼女を問い詰める。
己の執着をかえりみて、彼女の昼夜を巻き添えにして。