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ALL DAYS WITH YOU
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9月22日 DREAM!imagination3にて発行です。 all days with you ちづみか/文庫/240p/¥1300 千鶴と巳影の好きなものと嫌いなものとごはんの話の短編集。計12本収録。 一年生の三月から、三年生の十月までのふたりの話。 ※最初の一作のみ付き合ってません。 ※最後の三作は三年生捏造設定となります。 ○本文サンプルは全てランダムとなります。 ◎三年生時設定のみ捏造です。十作目冒頭が簡単な説明になっていたのでサンプルに入れてあります あんしんBOOTHパック(ネコポス)での発送となります。
目次
◎目次 1.名前も知らない 一年生の三月 付き合ってない 千鶴の誕生日の話 2.伏せたその長いまつげは涙を捕えて 二年生の五月 付き合ってる 巳影の苦手なものの話 寮長がちらっといます。 3.無造作にわらった君とその先の 二年生の六月 付き合ってる 夏の風物詩の話 寮長が少しだけいます。 4.ブルーブルー 二年生の八月 付き合ってる かき氷を食べに行く話 5.そういう病気 二年生の九月 付き合ってる 台風が来た夜の話 6.ふたつの胃 二年生の十月 付き合ってる 嫌いな食べ物の行方の話 寮長がちらっといます。 7.ゆくゆくは溶けて混ざってひとつになる 二年生の十二月 付き合ってる クリスマスには会えない話 仁さんがちらっといます。 8.遠い隣人 二年生の一月 付き合ってる 京都とロスにいるふたりの話 9.アマリリスの窓辺 二年生の二月 付き合ってる バレンタイン商戦と売れ残りの話 10.君は僕のものにはならないけれど、僕は君のものだよ 三年生の四月 (※ペア同室捏造) 付き合ってる お互いに譲れないものとどうしても嫌なものの話 11.くだらないせかいのまま、このまま 三年生の七月 (※ペア同室捏造) 付き合ってる 縁日に行く話 12.あいしてくれた報復に僕は永遠を祈るとしよう 三年生の十月 (※ペア同室) 付き合ってる 千鶴が帰ってこない話 前半スリルギャンブラーのふたりです。
本文サンプル
【ブルーブルー】 「あれ、ちづちゃんヒマなのー?」 飛んできた声に首をぐるりと回す。ラウンジには他に人影もあったけれど、千鶴に近寄る人物も、声をかける人物も居なかったから、周りには誰も居ない。と、いうことにも今更気付いた千鶴は、不機嫌を表に出しすぎたか、と内心だけで肩を竦めた。ぎゅ、と見えない角度で一度だけ拳を握って、解くのと一緒に肩の力を抜く。 千鶴の不機嫌はラウンジの隅にまで届いていたのだろう、振り向いて広がった視界の端で、千里がびくり、と肩を揺らすのが目に入った。不快ならばどこかへ行けばいいのに、と更に不機嫌が深まるのを感じる。千鶴の思いが通じたのかは不明だが、千里たちと反対の端にいた数人はそそくさとラウンジを出て行った。暇人め、さっさとそうすれば良いのに、と今気付いたくせに舌を打つ。 「すーごい凶悪な顔してますね千鶴サン」 ふは、と小馬鹿にしたように笑う巳影は、何も気にせずにのんびりと近づいてくる。千鶴が占領していたソファの背もたれに肘をついて、にやにやと嫌な笑顔で見下ろされた。顔面を殴ってやりたい気持ちが浮上するけれど、とりあえず今はやめておく。ここで殴ればただの一方的な暴力になるだろうし、別にそれは構わないのだが、何故かまだ人目がある。ある上に、巳影が千鶴の不機嫌を意に介さずいつも通りののんびりとした雰囲気で近付いたせいで、むしろ視線はちらちらと集まっていた。鬱陶しい、ともう一度舌を打つ。 「何か用」 「別に?降りてきたらめっちゃ空気悪いから何かなーと」 「関係ないでしょ」 「まあね」 「何か用があって降りてきたんでしょ?どうぞ用事をお済ませください」 「特に今日は予定無いんだよねえ」 「暇人が」 「うっわ、こわーい顔」 にやにやと細めていたグレーをわざとらしく見開いて、巳影は小さく肩を竦める。姿を現した時から左手に持っているスマートフォンへ指を滑らせて、千鶴から視線が外れた。叩き落としてやりたくなるが、それも我慢しておく。 「まあ、だいたい想像つきますけど」 「じゃあ話しかけんな」 「冷たーい」 「そもそも知ってるんだったらさっきのセリフなんなの?わざとなの?煽って楽しい?」 「煽られてくれたなら嬉しい」 「ドMかよ」 「やだあ、千鶴さんそんなイヤラシイ」 「お前の口はいつか縫い付けてやらないとって思ってたんだよね」 「麻酔くらいしてよね」 「誰がそんな面倒なこと」 「ちなみに針と糸はあるの?手芸用だと逆に手間かかりそうじゃない?」 「柴咲に出させる」 「ウケる、ガチじゃん。真ちゃんに上手いこと言っとかなきゃ」 「その暇もないくらいすぐにやってやるから安心して」 「ちづちゃん大概オレのこと好きよね」 「ねえどこをどう聞いてたらそうなるの?耳と脳とどっちがおかしくなっちゃったの?頭打った?病気?」 「残念ながら元気なんですねえ。あれ、言語理解能力って前頭葉だっけ、後頭葉だっけ」 「前頭葉と頭頂葉と側頭葉」 「ほぼじゃん。やばいね」 「本当に。もう一回頭打った方がいいんじゃない?」 「えー、痛いのは嫌だなあ。ドMじゃないから」 「えっ……違うの…?」 「ちづちゃんマジで役者でも目指せば?一見優等生ないじめっ子とかハマり役よ」 「つまんなそうなドラマ」 「かませっぽいしね。ていうかそれだといつものちづちゃんか…」 「いつも思うんだけど、巳影ってどうにかして殺されたいんだよね?」 「えっ、確認してる?」 「してない、絶対に殺すし」 「やだあ、千鶴さん熱烈~」 けたけたと笑う巳影に、深いため息だけを返す。ぼすん、とソファへ背を預ければ、神経をわざと逆撫でるような笑い声から、柔らかな笑みに切り替えた巳影が少しだけ身を屈める。巳影の向こうから伺うように向けられている視線はまだあるけれど、彼がバリケードのように立っているからもう千鶴には届いていない。 「ま、殺す前に、ちょっと付き合わない?」 突然声量を抑えた巳影の声音は柔らかい。きっと聞こえていたら千里あたりが騒ぎだすだろうくらいの変わり身の早さに、千鶴は表情を緩めてやった。軽いため息をついてから、千鶴も声を落とす。 「…やっぱどこか行く予定だったんじゃん」 「いや、今思いついたの。ちづちゃんヒマなら一緒に行こ」 (後略) 【アマリリスの窓辺】 珍しく眠そうだな、とは思っていたが、眠ければ勝手に寝るだろうと放っておくことにした千鶴が動画を再生したのは、二時間近く前だ。時差ボケというほどでもないけれど、まだ体は眠ってくれそうにない。千鶴はそのまま三本目の動画を再生して、ふと隣を振り返る。最初こそラップトップをいじっていた手はあくびを隠すことの方に多くを割くようになってから、ものの数十分で力なくシーツに落ちた。諦めに閉じられたラップトップはおざなりにベッドヘッドへ押しやられているし、モニターを見上げる千鶴とは逆に、頬は枕に埋めるようにうつ伏せになっている。それでも顔を覗くように見下ろせば、とろりと溶けたようなグレーの瞳は、ゆるゆると千鶴を見上げる。まだ寝ていなかったのか、と口には出さずに眉を上げても、眼鏡の無い巳影の視界では意図までは汲み取れなかっただろう。重たそうな瞼はゆっくりと落ちて、それでも何故か懸命に持ち上がる。 主人に付いて三日ばかり中東に滞在した後、そのままフランスへ発った彼と別れて帰寮したのは今日の夕方のことだ。まだ二月とはいえ、東雲ではこの時期には殆ど授業も終わっている。三年生には卒業審査の、それ以外には進級考査という名ばかりのテストと成績及び単位が備わっていれば特に学園に居なくても問題のないこの時期は、千鶴も仁に付いてあちこち動き回ることの方が多い。来年にはそれも極端に減るだろうが、仁が千鶴の学業を優先させてくれているのはありがたいことだ。千鶴は東雲に来るまでこうした学校というものには通わなかったけれど、これはこれで何か得るものもあると思い始めたのはごく最近である。 特に受けなければいけない授業も何も無い中、今回千鶴が途中で同行を辞めたのは、明後日にあるゆめシステムの大型アップデートを見学する為だった。先週末、突然の思いつきで明後日の日付に決行することにしたらしい桐谷の意向をすぐに知らせてくれたのはこの巳影で、聞けば彼も興味があるから同行するなら帰っておいで、とのメッセージを受けたのは飛行機の上だった。仁に相談すればそれは来年のシステム利用にも参考になるだろうとの崇高で賢明なる言葉も頂き、間に合うように帰ってきた。 のは、良いのだけれど、一日早く戻ったせいで、明後日の昼まで何もすることもない。明日は伊野尾教諭が出張らしく二年生の授業は無く、仁は卒業式の前日まで帰国すらしない。どうせ暇だろうと訪ねた巳影も特に出かけるような用事は無いようで、だらだらと過ごすままに夜になってしまっている。夕食は巳影がキッチンで手早く用意して持ってきたものをソファで食べたし、二月の寒い夜にわざわざ出かけることもない。一応、といつもの時間にはベッドへ入った千鶴が、最近映画よりもなんとなく観続けてしまっているアメリカの連続ドラマを再生する前から、巳影はどこか眠そうだった。 ちらりとだけ見たモニターの中では、もはや見慣れた警察署のセットが映っている。 「寝れない?」 「…いや……」 「音絞ろうか?」 「ううん、もう聞いてないから…大丈夫…」 いつも映画でも英語音声のまま再生するが、千鶴としては英語でも日本語でも同じように、ぼんやりしていてもきちんと意味のある言葉として聞き取れるのと違い、巳影はきちんと聞き取ろうとしなければ英語だとただのBGMになることが多いと言っていた。だいたい作業の後ろに流しているのだから巳影にも特に問題ないと洋画などはずっと英語のまま流している。今夜もとうに聞くのを辞めていたのだろう巳影が、だから何故寝ていないのかが不思議で、千鶴は事件の起きた画面に半分だけ意識を戻して、巳影の横に沈むように少し体を寝かせる。 「寝ればいいのに」 「そんなに眠そー?」 「何を意地になって起きてんだか、って感じ」 「うーん、それは相当だねえ」 目元と同様、ぼんやりと溶けている口調は少し舌足らずで、発音が覚束ない。右の耳で巳影の声を拾いながら、左の耳で早口の英語を聞き流す。一話完結のドラマはだいたいが同じ行程と成り行きを追って、目紛しいスピードで展開していく。 「…なんで」 「ん?」 ぽつり、と落ちた声に視線を向ける。微睡みを具現化したらこうなるのでは、というくらいには眠気しか見えないグレーの瞳は、ぼんやりとモニターを見上げている。 「アメリカの警察官って、なんでやたらとドーナツ食べるん…?」 画面では、警察署に戻ってきた刑事たちがドーナツの箱を回しあっている。殆ど意識の保てていない巳影の崩れた口調に改めて目をやれば、重い瞼はようやくしっかりと閉ざされていた。 「やっと寝た」 やれやれ、と肩を竦めて、枕に埋もれる口元へ指を翳す。眠る時に呼吸の薄い巳影の生存を確認してから、千鶴はモニターから流れる音量を少し小さくした。 (後略) 【ゆくゆくは溶けて混ざってひつになる】 (前略) 終業式は昼前に終わり、巳影が生徒会の仕事を終え、寮の雑務等々を休暇中に手を煩わされない程度に片付けた頃には、既にもうすぐ陽が沈みそうな時刻になっていた。一度部屋で着替えてから、巳影はのんびりと黒寮へ向かう。なんだか半年ほど前にも同じことがあったな、と思いながら、目当ての部屋へ辿り着く。換気でもしているのか、ドアは半分開いていた。 「ちーづちゃん」 開いた扉をノックするのと同時に顔を覗かせる。ついでに掃除もしたらしく、どこかすっきりとした室内の一番奥、窓を閉めている途中だった千鶴が首だけで振り向いた。 「荷造り終わった?」 「は?なに」 「お掃除も終わったみたいね」 「だから何」 「はい、じゃー支度して」 「なんの」 「寒いからもう一枚着てからコートね。セーターとかまだしまってないのある?」 「ちょっと、巳影!会話しろ」 千鶴の服が入っているチェストを勝手に開けて、がらんとした中に残されていたニットを取り出す。アメリカの冬はこっちより寒いのだから、これも持って行った方が良いのではと思いつつ、厚手のタートルネックのそれを眉を吊り上げている千鶴に被せた。窓を開けていたから部屋は殆ど外気温まで冷えていて、掠めた千鶴の耳も冷たくなっている。 「明日の出発まで暇なんでしょ?」 「なんで知って──別に、暇じゃ」 「仁さんに聞いたから確かでーす」 「は?何で仁さんが、」 「はいはい、コート着て手袋つけて、はぁい行くよー」 「ちょっと、どこ行くの」 「それはお楽しみ」 勝手にクロゼットを開けて残っていたコートを着せ、手袋は見当たらなかったから自分のコートのポケットに入れていた分を付けさせた。背を押すように部屋から出す。ドアを閉じてしまえば、眉間に皺を寄せながらも、千鶴は鍵を取り出した。 海辺の街は風が冷たい。人出は多かったが、人混みというほどでもなかった。ひどく混むのは明日からの三日くらいなのだろう。 適当な駐輪場にバイクを止めてから、数分歩く内に千鶴はようやく目的地が判ったようで、それからずっと遠回しに悪態をつかれている。 「まあまあ、たまには良いじゃん?」 「全然良くない」 「ちづちゃんどーせクリスマスっぽいことしないんだろうし」 ね、と視線を流せば、不満げに眉を顰めた顔に出会う。少し面白くなってきた巳影は、わざとにこり、と綺麗に笑ってやった。 「向こう帰ったらパーティの準備とかあるんでしょ?千鶴にもクリスマスらしいことをさせてやってくれって、仁さんに頼まれちゃって」 「仁さんが…?」 顰めた眉が、訝しげに八の字に下がる。巳影は笑みを崩さないまま、ひょい、と片方だけ眉を上げた。 「まあ、言ってはいなかったけど」 「ふざけんな」 (後略) 【君は僕のものにはならないけれど、僕は君のものだよ】 (※三年生捏造設定の軽い説明になっていた冒頭部です。 特に設定が活かされてはいません。) 慣れない部屋の、慣れた風景にまだ馴染まない。見える景色は殆ど同じなのに、カーテンや照明が違うだけでこうも印象が変わるものか、と感動さえしたのはもう二週間は前のことだ。そろそろ慣れないと、とは思いつつ、きっとこの違和感はこの一年間で拭えるものでもない。 巳影が黒寮に入ったのは三月の終わりで、入学式の前に全ての手続きを終わらせた。今年は巳影と千鶴以外のシャッフルは行われず、凛太朗を送り出した由仁は新一年生と組んだ。他は持ち上がりになったから、今回は一年生ペアが多い。とはいっても東雲のゆめシステムの評判は広がるばかりで、入学者数も格段に増えたから、まあこれが手っ取り早く丸くおさまる方法だったのだろう。(新一年生のデータを吟味し相性の良し悪し及び意外性や将来性、期待値諸々を考慮してペアを決める作業を、途中で面倒になってあみだくじにしていた桐谷の姿は、たまたま隣で軽い昼食をとっていた巳影しかおそらく知らない。) 「起きたの」 「おはよー」 「寝坊」 「休みだからいいじゃん」 ふあ、とあくび混じりに抗議すれば、階段を昇りきった千鶴の視線が鋭く尖る、ような気がした。まだレンズの補正がない視界では、既にしっかりと身支度を整えているようなシルエットしか判らない。 「朝のお仕事終わりましたか」 「とっくに。よくそんな寝てられるよね」 「昨日遅かったからー」 「昨日だけじゃないでしょ」 呆れた声に何か返す前に、脳がもう一度酸素を求める。あくびは指先で隠したけれど、目尻に溢れた涙は白い指に攫われてしまった。ぼやけた視界でぼんやりと見上げれば、ぱちん、と軽く頰を叩かれる。 「起きるの、寝るの」 「ちづちゃん寝るなら寝るけど」 「今何時だと思ってるの?」 「お昼くらいじゃないの?」 お昼寝しましょう、と仰々しく誘えば、呆れたため息が降ってくる。確か今日は、四月に入ってから初めて、何の仕事も予定も無い日曜日だ。起きたばかりの巳影がもう一度寝ていたところで、訪ねてくる者も気にかける者もいない。なにか、寮内で問題が起きなければ、だけれど。 「はい、どーぞ」 「まだ寝るって言ってない」 「寝るでしょ?」 「お前ね…」 どうせ使わないから、と元々の千鶴のベッドを部屋の奧へ押しやって、新しく買った少し大きめのベッドは、仁が使っていたものより少し大きかった。ふたりで入ってもまだ少し余裕がある。やれやれと首を振る千鶴の腕を引き込めば、たいした抵抗もせずに膝がシーツへ乗り上がる。屋外にはまだ行っていないだろうが、部屋の外には出ている千鶴の服は外気を纏っているようで気に入らず、巳影は抱き込む前に上着だけ脱がせる。厚手のカーディガンはそろそろしまい込まれるだろうが、手触りは好きだった。それでも今惰眠をむさぼるには邪魔者で、ベッドヘッドへ適当に放る。怒られるかな、と思いつつ、ベルトも引き抜いて床へ放ってやった。意外にもそのまま横になろうとする千鶴に逆に腕を引かれて、倒れるように枕へ戻る。 「あら、積極的」 「煩い、早く寝ろ」 「えー」 くすくすと笑う声を封じるように布団が引き上げられる。心地良い暖かさに再び包まって、意識はすぐに持っていかれそうだ。 (後略)