妖精の見える少年
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この本に興味をもってくださり、ありがとうございます。 【本作は】 ↓ 「喪失」と「静けさ」、そして「言葉にならない想い」を描いた短編集です。 学校をさぼって歩く少年と、言葉を持たない小さな妖精。 ふたりが巡るのは、駄菓子屋の記憶、川べりの風、裏山の静けさ……。 何気ない町の風景のなかで、少年の記憶は少しずつほぐれ、 やがて、心の奥に封じていた痛みと向き合うことになります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 筆者の伝えたいこと ▷ どこか懐かしくて、少しだけ切ない場所 ▶ 誰にも言えない感情と、それでも誰かと繋がりたい気持ち を、静かな空気のなかにそっと浮かべるように描きました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー ①静かでどこか幻想的な雰囲気の物語を読みたい ②心の揺れや孤独を、そっと見つめていたい ③少し救いのない結末が意外と好き そんな方におすすめの一冊です。 一話ごとに区切りがあり、夜の読書にもぴったり。 部屋の灯りを少しだけ落として、心をほどくように読み進めていただけたら嬉しいです。 ▽ これからもたくさんの読みやすい短編集を本にしてお届けします! 新作の通知のため、ぜひ BOOTHのフォローをして 応援よろしくお願いします! また、割引キャンペーンやプレゼント企画の告知などもしますので、 SNSのフォローもよろしくお願いします! Ⅹ(旧Twitter):@say6novel 著者:セーイ6
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更にもう一話ぶん! noteかPDFで試し読み出来ます! note↓ https://note.com/say6novel/n/n7c69d392b8be ------------------------------ 朝、背を向けて 塩辛い湯気のにおいが、家じゅうに漂う。 父と母は起きてこない。 朝、寝室のドアに触れることを、許されてはいない。 少年は、鞄を肩に引っかけ、靴をつっかけるようにして家を出る。 玄関のドアを開けると、外の空気が流れ込む。 朝方のまだ冷たい風が、肌に突き刺さる。 空は高く、どこまでも白みがかっている。 まるで何か大切なものが、遠いところへ流されていってしまったような朝だった。 学校へ行かなくちゃ。 そんな言葉が心に浮かぶ。 けれども足は、不思議と違う方向へ向かってしまう。 今朝だけは、どこか違うところへ。 通い慣れた通学路を外れ、小さな路地を抜ける。 いつもなら、赤いランドセルの重さに振り回される妹と手をつないで歩いた道。 けれど今日、少年の手は空っぽだった。 ふと、目の端に何かが光り、見やる。 始めは、朝の陽射しのせいかと思った。 けれど、目を凝らせばそれは、確かに“そこ”にいた。 人のかたちをした、小さな、小さな何か。 ふわふわと宙を舞うように動き、透明な羽根を震わせて、僕を見つめていた。 言葉はない。 “それ”はただ、じっとこちらを見て、にこりと笑う。 そして、くるりと背を向けると、すいすいと滑るように、どこかへ飛んでいってしまう。 少年は、つい追いかけた。 “それ”がどこへ向かうのかも分からないままに。 町はまだ静かだった。 車の音も人の声も、小さく遠く、くぐもって聞こえる。 朝の光が家々の窓をきらりと照らし出し、まだ起き切らぬ世界をそっと撫でている。 学校へ行かなくちゃ。 いつもなら、こんなふうにサボってしまえば怒られる。 勝手に町を歩き回るなんて。 でも、今日は誰も、それを怒る人はいなかった。 だから、僕は“妖精”を追いかけた。 ふいに、胸の奥がぎゅう、と締めつけられる。 なにか、大事なことを忘れているような。 けれど、それを思い出すのは、怖かった。 妖精は振り返り、僕に手招きする。 僕は頷き、小さな背中を一生懸命、追いかけた。 誰もいない小道を抜け、空き地を横切り、寂びれた公園の脇を通り過ぎる。 ブランコが、ひとりでに揺れていた。 まるで置き去りにされた誰かが、誰かの帰りを待っているかのように。 風が吹いた。 冷たい空気が制服の隙間を抜けて、僕の肌を撫でた。 僕は、歩みを止めなかった。 道端に咲くたんぽぽ。 塀の隙間から顔を覗かせる猫。 ひび割れたアスファルトの上に置き去りの、誰かに忘れられたビー玉。 そんな小さな町の景色を、少年はぼんやりと眺めながら通り過ぎた。 世界は、今日も変わらず回っている。 ただ自分だけが、どこにも居なくなってしまったような気がした。 妖精は時折、風に舞い踊ったり、道端へ咲く花に触れたりして進んでいく。 その仕草はとても優雅で、まるでこの世のすべてを慈しんでいるかのようだった。 少年は、小さな笑みをこぼした。 この世界に、こんなに美しいものがあったんだ。 真っ白な頭の中で、そう、ふと思った。 そしてまた、胸の奥が、ちくりと痛んだ。 忘れたくないこと、忘れなきゃ生きていけないこと。 そんな矛盾が、身体の隅々に染み込むような。 どこかで小鳥が鳴く。 その声が、ひどく遠くに感じるのだ。 少年は、そっと拳を握りしめた。 鞄の重みが、肩に食い込む。 その感触が確かに、自分を地面に繋ぎ止めている気がして、ありがたく思えた。 妖精は再び振り返り、少年に笑いかける。 その笑顔は、何も言わないのに、すべてを包み込んでくれるようだった。 僕は、深く息を吐いた。 どこへ行くのか、分からない。 でも、きっと大丈夫だと思った。 自分の足で歩いている限り。 たとえ、もう二度と戻れないとしても。 僕は妖精の方へ、また一歩、歩みを進めた。 ------------------------------ ここまで読んでいただきありがとうございます。 他にも多数の試し読みをご用意しております! 少しでも気に入った作品あれば、続きのご購入をご検討くださると幸いです! 今後とも応援よろしくお願いいたします。
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