最後の種
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この本に興味をもってくださり、ありがとうございます! 【本作は】 ↓ “静けさ”と“心の揺れ”をテーマにした短編集です 荒廃した世界を旅する少年と少女。 彼らが出会うのは、静かすぎる森、欲望に溺れる塔、忘れられた都、孤独な山…。 それぞれの場所にある「安らぎのようでいて少し不穏な静けさ」を通して、 心の奥底にある純粋な感覚が表出するような物語を書き上げました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 筆者の伝えたいこと ▷ 静寂のなかに潜む、微かな不安と孤独 ▶ 安寧を求める気持ちと、安寧の中で怯える恐怖 を、あなたが自然と受け取れるように 心を込めて書き上げました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー ①静かな世界を旅する、幻想的な物語に触れたい ②不安と安らぎ、孤独と繋がり、その情緒の揺らぎを感じたい ③日常の終わりに、静かな物語で心を整えたい という方に、それぞれお楽しみいただけると思います。 一話完結で読みやすく、いつでも読み進められます。 柔らかな灯りのもと、温かい飲み物を片手に、ふたりの静かな旅に耳を澄ませていただけたら嬉しいです^^ ▽ これからもたくさんの読みやすい短編集を本にしてお届けします! 新作の通知のため、ぜひ BOOTHのフォローをして 応援よろしくお願いします! また、割引キャンペーンやプレゼント企画の告知などもしますので、 SNSのフォローもよろしくお願いします! Ⅹ(旧Twitter):@say6novel 著者:セーイ6
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更にもう一話ぶん! noteかPDFで試し読み出来ます! note↓ https://note.com/say6novel/n/n3d33d63cafe9 ------------------------------ 『緑のない森』 緑なき森には、葉の色をしたものだけがある。 幹も葉も、苔も草も、すべてが完璧に整えられ、まるで切り取った絵のように動かず、音もなく、ただ存在していた。 風は吹かない。鳥も鳴かない。虫の翅音すらない。 「静かだね」 ジュが口を開いた。 柔らかな声だった。目を閉じ、空を仰ぐが、その空には雲も流れず、ただ青く塗られているだけのようだった。 「静かじゃない」 モクはそう言って、ひざまずくと地面に触れた。 土の感触は、ある。だが、なにも宿していない。 種も、根も、命のぬくもりも、なにも。 「ここは、音がないだけだ。静かとは違う」 「そうなの?」 ジュはモクの隣にしゃがみ込み、薄く微笑んだ。 緑色の草は彼女の膝下まで伸びていたが、揺れない。 踏まれても、曲がらない。 まるで絵に描かれたような姿をそのまま、保っていた。 「ねえ、ここにいると、楽でしょ?」 「楽…?…そう、かもしれない」 「だって、不自由もないし、誰もいないし、何も起きないし。危ないことも、面倒も、怖いことも、無い」 「…そうだな」 モクは立ち上がり、森の奥を見渡した。 どこまでも同じ光景。深緑の葉、同じ高さの木、均一な太さの幹、同じ形の枝葉。無限に続いているようで、限界は見えない。 「でも、楽になんて、あまり意味はない」 「うーん、そうなの?」 ジュがたずねる。声にはかすかに遊び心がにじむ。 「…たぶん、ぼくらが動かなければ、このまま永遠に、ここに居られる」 モクはそう言い、ポケットから小さな袋を取り出した。 中には、一粒の種。灰色の皮が、かすかにひび割れている。けれど、芽は出していない。 「ジュ、この種、植えたらどうなると思う?」 「んー、どうなるかな」 ジュは頬づえをつき、じっと種を見つめた。 どんな花を咲かせるのか、どんな実をつけるのか。思いを馳せる。ただ、その意味の先へ。 「ここなら、安全に育つかもしれないね」 「そうかもしれない」 「でも、ここって、すごく広いのに、狭いんだよ」 ジュはゆっくりと立ち上がり、両手を広げた。 どこまでも森。どこまでも緑。 すべてが同じ。 「広くて、なにもない。広がっているのに、どうしてだろう。心が広がらない」 「そうだな」 モクは頷くと、種を握りしめた。 手のひらの中で、それはわずかに熱を帯びる。 その熱で、種が芽吹くかと思えた。 「ねえ、モク」 ジュが笑う。ほんの少し、困ったように。 「ここにいると、なんだか、自分が消えていく感じがする」 「消えないよ。ここにいれば、ぼくらは永遠に、生きていることになる」 「分かるよ。…でもそれって、わたしたち、ほんとに生きているのかな?」 しばらく、ふたりは黙った。 沈黙は、空気でも音でもなく、この森のただの“無音”だった。 やがて、モクがぽつりと言った。 「出よう」 「うん」 二人は示し合わせたように、顔を見合わせる。 「この森を出て、別の場所に行こう。もっと、遠くへ」 「なにか、見つけたい?」 「うん。知りたいんだ。世界がどこまで続いているのか。何があって、どうして、こんなふうになったのか。なぜ、誰もここにいないのか」 「いいね。わたしも、見たい」 ジュの目は、森の外を向いた。 森の境界は、遠い。けれど、必ずある。そう信じていた。 「この種も、持って行こう」 モクは種をポケットに戻した。 種は、ただの種。そして、たった一粒しかない。 特別な、最後の種だった。 「どこか、心が静かになる場所を探そう」 「そこで、植えるの?」 「そう」 「そしたら、何が生まれるのかな」 「わからない。でも、きっと、ここよりはずっと、静かなところだと思う」 「どうして?」 「ここは、静かなふりをしているだけだから」 ジュは笑った。軽やかに、嬉しそうに。 「それ、すごくいいね。静かなふりって、なんか、ずるい」 「ずるいな」 ふたりは歩き出した。 森の中、同じ木々の間を抜け、何も起こらない道を進む。 「ねえ、モク。どんな場所に着くと思う?」 「さあ。まだ見たことのない景色。知らない音。触れたことのない空気」 「それ、わたし、すごく好きだと思う」 ふたりの声は、森の中に吸い込まれていく。 誰も答えない。誰も聞いていない。けれど、その無音は、さっきより少しだけ、あたたかいものに変わっていた。 やがて、森の端が見えた。 葉の色も、木の形も、わずかに変わっている。そこには、風があった。微かに草が揺れ、枝が音を立てる。 「モク、ここから、はじまるね」 「うん」 モクは一歩、外へ踏み出した。 ジュもその後を追う。 最後に振り返ると、緑なき森は、何も変わらず、ただそこに佇んでいた。 「また、戻ってきてもいい?」 ジュが尋ねる。 モクは、しばらく考えたあと、首を横に振った。 「戻ってきたら、そこにあるのは…過去だけだよ」 「…そっか」 ジュは頷き、もう振り返らず、前を向いた。 「じゃあ、進もう」 ふたりの影が、森の外へと溶けていく。 種は、ポケットの中で静かに熱を、帯びていた。 ------------------------------ ここまで読んでいただきありがとうございます。 他にも多数の試し読みをご用意しております! 少しでも気に入った作品あれば、続きのご購入をご検討くださると幸いです! 今後とも応援よろしくお願いいたします。
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