お后さまは大災難
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32P 本編のスピンオフ話です。 鹿毛の馬は、今は高耶のものになっていた。相性が良か ったのか、今では高耶も可愛がっている。その鹿毛に乗っ た高耶の背後をタチバナに乗った直江が追いかけている。 2人は王城の裏の森に向かっていた。 本当は護衛も必要なのだが、この森に行く時は場所が近 く他の者が誰も足を踏み入れない所為もあり2人だけで出 かける事が多かった。尤も直江より強い者はいないので、 何よりも安心な〟護衛〝なのだが。 「はぁ」 泉まで行き馬を下りると、鹿毛とタチバナは並んで水を 飲み始める。高耶はゴロンと横になった。 「… … 」 木々の切れ目から真っ青な高い空が見える。冬が近く空 気が冷たいが、それが逆に心地良かった。 ふわ、とした感触に顔だけ横に向けると、直江が寝転ぶ 高耶の横に腰を下ろしていた。直江が上着を高耶にかけた のだ。 目が合うと、高耶は自然と微笑んでいた。直江も笑うと 指を伸ばし、高耶の黒い髪をそっと撫でる。その心地良さ に高耶は、猫の仔のように目を細めた。 言葉は無い、だがこんな時間こそが互いに愛おしかった。 さぁ、と吹いた風に目を開くと、直江が遠くを眺めていた。 「直江?」 高耶の声に、直江は見下ろしてくる。 「久し振りですね」 「え?」 「こうやって2人でこの森に来るのは」 「… … ああ… … そうかも」 忙しい身である直江は、普段の昼間の時間は高耶の為に 割く事が出来ない。特にここの所は例の豊穣祭もあり、準 備と後始末に追われていたらしい。 「鳥越と礼、元気かな」8 「ええ、報告によると弟の方もすっかり回復し、穏やかに 暮らしているようです」 「ならいいや… … 」 「高耶さん」 「ん?」 「直ぐには無理ですが… … 何時か行きましょう」 「… … え?」 直江の言葉に、高耶は上半身を起こす。 「あなただとバレなければいいのでしょう?あなははそう 言うの得意じゃないですか」 確かに高耶はよく、成田老の怪しげ?な薬や大きなフー ドを使い街に降りている。 「バレなければ問題い無いでしょう?」 「… … そうだな」 確かにあんな目に遭った兄弟の行く末は気になってしま う。しかも鳥越とは今でも、他人とは思えない気持ちもあ った。 それから2人はゆっくり森の中を散歩した。木々の葉は 春夏程生い茂っていないが、秋と冬の匂いがしてそれはそ れで楽しい。 サクサクと枯葉を踏みつつ2人は歩いていた。得に目的 もあてもない、こうして2人で他愛無い話をしているのが 楽しいのだ。 「… … 」 「直江?」 唐突に直江の足が止まった。 「どうかした… … 」 直江の険しい表情を見て、高耶も自然に警戒モードにな る 数 。 年前、まだ高耶がこの世界に落ちてきたばかりで直江 を持て余していた頃、直江が森でサーベルに襲われた事が あった。高耶を庇って重症を負ったのだ。それを思い出し た高耶は、きょろきょろと辺りを見回した。 「高耶さん… … 何か」 変だ、と続ける直江の視線は、 「… … 」 「ッ」 高耶と同じく妙な所で固まってしまった。 「… … 」 「… … 」 高耶は口をあんぐり開き、フリーズしていた。直江も虚 と突かれた形になったが、咄嗟に高耶を背後に隠す。