お后さまは大困惑
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32P こんな事になるとは… … 正直義明は頭を抱えたい気分だった。 自分の容姿が人にどう見られているか、十分自覚してい る。それを利用しているし、利用されている状況もどうと も思わない。 大人びた外見は、 14には見えないとよく言われる。容姿 もそうだが、躯も大きく背はとうとう義母を超えてしまっ た。この事に関しては、義母には恨みがましく言われてし まったのだが。 「義明」 鬱々とした気持ちで廊下を歩いていると、背後から三郎 が声を掛けてきた。 「三郎?」 皇太子にとって、この弟皇子は可愛い存在だ。小さい頃 から仲が良く、義母が来てからは特に3人で一緒に遊んで きた。 後宮でも最高の美女と謳われた産みの母によく似た三郎 は、義明の目から見てもとても綺麗な顔をしている。一方 義明は、父王直江と瓜二つだった。体格もそれに比例して いる。 大人びた義明とは対照的に、三郎は小柄で華奢で、 13と 言う年齢よりも幼く見える。 「何?」 立ち止まっている三郎の前まで歩いていき、少し屈んで 顔を覗き込んだ。 「旅行」 「え?」 表向き人当たりがよく社交的な義明とは対照的に、三郎 は無口で変わっていると思われている。だが義明は、三郎 はとても真っ直ぐで素直な人間だと知っていた。自分の好 奇心に忠実で、思った事を口にする。その辺が、上手く外 面を作れる兄皇子とは違った部分なのだ。 2人の息子の性格をよく分かっている高耶は、そんな対 照的な部分が面白いらしくよく揶揄って笑っていた。 政治経済に関して、義明は既に教育係である色部からも、 もう私に教える事はありません、と言わせる程になってい た。だが三郎は、皇子だと言うのに殆ど知識が無い。即ち 興味が無いのだ。 三郎の興味の殆どは、絵を描く事に集中している。三郎 の絵は義明から見ても素晴らしいものが多く、しかも絵に よって全く雰囲気が違っていた。 何を描いているのか分からない不思議な色彩の渦を壁い っぱいに描いたり、まるでそのものを写し取ったような精 密な絵も描いた。その方面は、反対に義明にとっては全くなのでとても凄いと思っている。 即ちこの兄弟は、内部外見、全て正反対なのだ。 「旅行って?」 「行かないのはあの女の所為か?」 唐突な言葉に、義明は言葉に詰まってしまう。 「ちょッ」 三郎に〟遠回しな表現〝は存在しない。そのままズバリ の直球なのだ。だがいきなりそんな事を言われれば、焦っ てしまうと言うものだ。 「何言って… … 」 「結婚するのか?」 ズバっと。 「… … 三郎… … 」 兄皇子はがっくりと肩を落としてしまった。 「しないよ… … あの人はその」 「夫がいる」 淡々と三郎は話す。 「そうだ、だから」 「ふーん」 分かっているのかいないのか、弟皇子はふんふん頷いて いる。 「でも義明、高耶より女に会うんだろ?」 「ッ」 それは正しいが、正しくない。だがその辺の突っ込んだ 事情を義明は、三郎に話す気にはなれなかった。 上流階級の夫人、令嬢達は、暇をもて余し刺激を求めて いる。そんな女達と義明は、以前から遊びと割り切った付 き合いを続けていた。 そんな内容は何故か、三郎には聞かせたくなかった。義 明にとって三郎は純粋な生き物、と言う思いあり、そんな 話をしてしまうと、汚してしまう気がどうしてもしてしま う。そんな風に思っている事を三郎に言ったとしても、理 解不能な顔をされるだろう。分かっているが、この考えは 当分変えられない。 「義明は女が嫌いなのか?」 三郎は目を逸らさない、真っ直ぐに義明を見詰てくる。 「三郎?」 三郎の顔は真剣だ。本気でそう思っているのが伝わって くる。 一応女関係は表立って動いていないが、三郎は義明 の〟遊び〝を一部知っている。知っていてのこの発言、や はり義明には理解出来ない。摩訶不思議な弟だ。 「… … 何でそう思う?」 「だって、怖がってるから」 「… … 」 三郎の言葉に、義明は呆然と、珍しい表情を晒してしま った。 三郎の言葉は、他意が無い分シンプルで鋭い。本質を見抜く目を持っている。 「私が?」 「うん」 「… … 」 「だから怖くない女とばっかり会うんだろ?」 「… … 」 黙ってしまった兄皇子をどう思ったのか、三郎は詰まら なそうに小さく欠伸をするとスタスタと歩いて行ってしま った、言葉が見付からない兄を残して