お后さまは大ピンチ
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32P 高耶が再びこの世界に戻ってきて、早3ヶ月。世界も皇 帝皇后も落ち着きその代わり、色々あって滞っていた政務 が直江に押し寄せていた。その一旦を担ってしまった自覚 のある高耶は、内助の功、と勝手に決め裏方で直江をカバ ーしようと高耶なりに頑張っていた。 自惚れではなく事実として、直江の心の安定を与えられ るのは高耶だけで。なら直江のいて欲しい時に側にいて、 忙しい時は邪魔せず遠くで見守る、そんな風にしていた、 一応。当然高耶は内心、 オレって健気! そんな感じで。 まぁ思うのは自由なのだが… … 昼間は忙しいが、夜は皇帝は当然プライベートな時間を 満喫した。 直江の基本は〟いちゃいちゃ〝なので、目がぐるぐるす る程忙しいが高耶を〟補給〝するのは忘れない。男って疲 れていると余計したくなるんですよね、なんて皇帝のくせ に俗っぽい事をほざいて高耶に圧し掛かってくるのが最近 の夜の恒例になっている。 疲れている程… … 発言は実は、高耶にも思い当たる節が あった。随分前、当時付き合っていた彼女にそんな戯けた 事を言いHに雪崩れ込んだりしていたのだ。 確かに男ってそうなんだよな~、と思わないでもない高 耶もまぁ、直江との〟いちゃいちゃ〝は必要不可欠なので、 甘んじて受け入れてやる!な心意気なのだ。 「義母上?」 「へ?」 知らぬ間にフォークが止まっていた高耶は、義明の声に ハッとして刺さったままの肉の塊を口に放り込む。 「具合でも悪いのですか?」 父王に良く似た薄紫の眸が、心配そうに高耶を見上げて いた。 「高耶が食べないのはおかしい」 弟皇子、三郎までも怪訝な顔で義母をじーと見詰めてい る。 「… … や、別に何でもないぞ、うん」 ほら美味い、とわざとらしく次々と肉を頬張っていく高 耶は、はっきり言って増々不自然だ。だが何を訊かれても 答えられない高耶は、ただ黙々と食事に精を出したのだっ た。急ぎの政務の為、夕食は直江抜きの親子3人で摂った。 そんな席での1コマなのだが、最近は直江と食事をするの は半々な状態だった。確かに淋しくない訳じゃあないが慣 れてしまった為、普通に夕食、そんな感じだった、少し前 までは。だが王妃のどことなく不自然な様子に、食事の席 にそこはかとない緊迫感が漂ってしまっている。 「… … 」 「… … 」 「… … 」 今の状態はあと1週間もすれば落ち着く、と直江が言っ ていたので高耶も気にしない事にした、今この瞬間引っ掛 かっている何 ・ か ・ を。 「… … 」 「… … 」 「… … 」 何時もは会話と笑いが絶えない食事の席は、粛々と過ぎ ていったのだった。 コンコン 1日中会えないのでここの所、高耶は何時も夜は直江の 部屋で待っている。だが今日は高耶の私室、王妃の間、の 巨大ベッドに寝そべっていた。 「むーん」 鬱々と高耶は考えていた。妙な何かはもしかして、躯に 異変が起こったからか? 確かに成田の実験室で、喉が痛くなった。でも手元にあ った液体を飲んだのでまぁ、事なきを得た… … と思う。 「うむむぅ… … 」 もう喉は痛くない、でももしかして、あの煙は有害なも のが含まれているとか? 「うーうーうーうー… … 」 ごろごろ ベッドに転がりつつ唸っていた高耶の耳に、軽い音が聞 こえてきた。 コンコン ス、と自分の温度が下がっていくのを感じる。 「… … はい」 こんな風にノックをするのは、決まって、 「高耶さん」 「… … 」 直江だ。 だから高耶はもう、その音だけで直ぐ分かるようになっ ていた。 開いたドアから現れた男の姿を見た瞬間、湧き上がって きた感覚を何と言えばいいのか。 おかしいそう思っていても口から出てくるのは正直な感情に沿っ たものだった。 「… … 何?」 あれ? 内心心の中で首を傾げながら仏頂面になっている自覚し つつ、高耶の声は酷く平坦だった。 「高耶さん」 直江の甘い声が、ヤケに癇に障る。 「… … オレ今日は疲れてるからもう寝るんだ」 「高耶さん?」 この時点で、直江は高耶の様子がおかしい事に気付いた。 「高耶さん?具合でも悪いんですか?」 ゆっくりと近付きベッドの脇に立った直江を、高耶は鬱 陶しそうに見上げてくる。そんな皇妃の額に、当然のよう に手を伸ばし… … パンッ 「触んな」 「… … 高耶さん… … 」 叩き落された手を呆然と見詰め、直江は驚きながら高耶 に視線を流した。 「高耶さん… … ?」 高耶の顔に、直江の困惑は増々深くなる。 何か怒っているのかと思いきや、高耶の顔にはそんな色 は無い。 「出てってくれよ… … 」 「高耶さん… … 」 それは〟怒る〝よりも、更に悪かった。 怒っていない高耶は〟嫌がって〝いた。直江を嫌がって いるのだ。 「… … 高耶さん」 一体これはどうしたものか。 「… … 何か… … いや、俺が何かしましたか?」 訳の分からない直江はだから、考えても分からないと悟 り直ぐさま疑問を口にする。 「… … 何かって別に… … 」 だが返ってきたのは、更に不可解な回答だった。 「オレにも分かんねぇ… … 分かんねぇけどどうしても、お 前がここにいんのが厭なんだよ… … 」 「… … 」 当の高耶が戸惑っている。 ここにいるのが嫌だ その言葉に偽りは無いと直江は感じ取った。 「… … あまり調子が良くなさそうですね… … ゆっくり休ん でください」 「あ」 反射的に高耶は止めようとしたが、扉は無情にも閉じら れた後だった。 「… … 」直江に会いたかったのに、今出て行ってくれてほっとし ている。 「何でだ?」 分からん分からん全然、全くもって! 「うーむ… … 」 むずむずと、嫌~な感触が高耶の内部を不快にしていた。 だが眠気には勝てず、考えるのは明日、と王妃はベッドに 丸くなと直ぐ、寝息を立て始めたのだった。 一方の直江の方も、機嫌でも悪かったのか、気楽に考え 自室で書類を捲っていた。 だが、こーんな風に2人がのほほん、と考えてなどいら れない方向に、事態は向かっていたのをこの時点でまだ、 知る由もないのであった。 事件が起こったのは、その 24時間後の事だった