お后さまは大混乱
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32P 皇帝陛下シリーズスピンオフ話 「高耶さんの元の世界ってどんな所ですか?」 そろそろ眠くなり折角閉じられた瞼は、直江のそんな言 葉によって開かれてしまった。 「はへ?」 突然の直江の問いに、高耶は目を丸くした。 忙しい日々を送っている皇帝皇妃2人が、ゆったりベッ ドに寝そべっている、所謂至福の時間での事だ。ベッド、 と言ってもナニかしている訳じゃあない、ただだらだらの んびりしているだけ。だがそんな時間がとってもとっても、 大切だったりしている。 そんなのんびり空気の中、唐突な直江の言葉に高耶の眉 根が寄ってしまった。 「元の世界、って… … 」 地球? 日本? 二次元の世界? 「元の、世界ねぇ… … 」 戸惑いの隠せない高耶に直江は、ゴロン、と躯を起し后 の顔を覗き込む。 「はい」 ニッコリ 「… … 」 胡散臭い… … 高耶の目が、糸みたいに細くなった。 そもそもこの世界へ来て4年以上経つが、元の世界につ いてを直江が口にするなんて殆ど無かった。殆ど、と言う か皆無かもしれない。直江にとって、わざと避けている話 題、そんな空気さえ感じていた高耶は、それを感じてから なるべく口にしないようにしていた… … と言うのに。 「… … 」 高耶が胡散臭がるのも当然だった。 「お前」 「はい」 高耶は一度、アクシデントで元の世界に戻ってしまった 過去がある。だから余計に直江は口にするのさえ避けてい ると思っていたのだが… … ベッドの上で互いに横向きになり、息が掛かる距離で見 詰め、否、睨み合っている2人。ちなみに睨んでいるのは 高耶だけで、直江はのほほん、な顔だ。 「何だそれ」 「はい?」 「だーからッ、元の世界って… … 何なんだ?いきなり」 いきなり、もいい所だ。 明らかに不機嫌な高耶に、直江は表向き不思議な顔をして見せた。 「何なんだ、って… … そう思っただけですよ?」 「… … 」 シレ、とした顔の男に、高耶の黒い目が更に細くなる。 「何ですかその目」 「胡散臭い目」 「… … まあいいですけどね、あなたがそう思うのも当然で すから」 「ふーん、自覚あんだ」 「まあ一応」 皇帝陛下&妃殿下、そんな2人が夜ベッドで囁き合うに は些か色気の無い雰囲気だ。 高耶は探るように直江の薄紫の眸をジー、と見た。 「… … 」 「… … 」 暫し無言で見詰め合う。だが甘い空気は無く、何処か 緊迫したものが流れていた。 「… … 」 「… … 」 だが、そんな時間は長くは続かない。案の定先に口を開 いたのは、 「… … 異世界とか」 「は?」 直江だった。 「異世界とは高耶さん」 「うん?」 「どんなものなのか… … と思ったんですが」 「… … どんなものか、って… … 」 嘘臭い事を言う男の顔を覗き込む。 「… … おい」 「はい」 「… … 」 仮にも中間管理職、今はバリバリ管理職の高耶は多少は、 人を見る目に自信があった。 「高耶さん?」 「… … うむ」 だからそこに、嘘っぽさ、を見抜いてやろうとしたのだ が、 「ふむ」 戯けた色が見当たらない。 「何いきなり」 ボソ、と呟く高耶に、苦笑しつつ直江は黒い髪を撫でた。 「そりゃ興味あるでしょう… … 自分の愛する者の生まれ育 った世界ですからね」 「… … 」 赤面ものの台詞も、中々免疫がついてきている。だが恥 かしい事には変わりない。 「話して、くれますか?」「… … まぁいいけど… … 」 いまいち掴めない高耶だが、別に嫌だとは思わなかった ので、うーん、と考えつつ言葉を紡いでいった。 「そうだな… … まず〟身分〝が無い」 「身分が無い?… … それは皆同じ、と言う事ですか?」 「流石直江、無駄に頭いいな」 「… … 無駄… … 」 ポツリ、と呟いた直江の声など全く無視!で高耶は続け る。 「国を治める役人も大臣も首相… … まあ皇帝、みたいな? それと普通の民達は皆同じ身分」 「… … それは凄いですね… … 」 正直直江には、想像を絶する状態だ。現に言葉では理解 出来るが、具体的な想像はかなり難しい。 「まあ国によって色々だけど、オレがいた国は選挙… … 紙 に名前書いて決めるんだよ〟皇帝〝を」 「… … 」 「選ばれても任期があって、時期がくればまた選挙で民が 選ぶ、だからヘタな事は出来ない。戯けた真似すればもう 選ばれないからな」 「… … そのシステムは… … 全部ではないすが、上手く使え ば優れたものですね」 「へぇ」 生まれながらの〟皇帝〝の言葉とは思えない。だがそん な風に柔らかい思考を持っている所も、高耶が直江に惚れ ている一因だ。言ってなんてあげないけど。 「でもさ、そうは言っても〟市民平等〝なんて言葉だけだ って感じだけどな」 「… … 」 やはりどんな世界も闇も腐敗もあるのだと、高耶のぼや きで直江は悟る