学問ノススメ? 理事長サマの密かな楽しみ
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理事長直江 高校生高耶 サボリの常習の高耶は、その様子を観察されているとも知らず毎日学校の中庭で寝ていた。しかも人に言えないバイトもバレてしまう、その相手は理事長である直江だ。 女たらしの直江は高耶に、黙っている代わりに多数いる女へのアリバイを命じる。 仕方なく従っていた高耶は直江と、そ賭けをする事になった。何故か直江は高耶に、その手助けを申し出る。しかも直江のマンションに同居付きだ。 間違っても相性がいいとは言えない2人だが、高耶の色々を知るにつれ、直江は生徒である高耶に惹かれて行く。実は退学になれない、家族に関する理由が高耶にはあったのだ。 学園もの・ゲイバー・理事長と生徒・ラブコメ・シリアス 196ページ フルカラーオフセット 48ページ コピー本 2冊セット
「学問のススメ?」と番外編の「理事長様の密やかな楽しみ」のセットです
校舎を囲む花壇、そして数個ある大小の中庭は、常に綺麗に業者の手によって整えられている。五月も半場に差し掛かり、日によっては暑ささえ感じられるこの頃だ。緑の色も濃く鮮やかに輝いているのだ、が、 「ん?」 一瞬顔を顰めたが、直ぐに、ああ、と納得してしまう。 理事長室の窓の下には、小さいがスペインのパティオ風に造られた美しい中庭がある。ちんまりしたサイズで緑が多いのだが、パティオ風にしつつもあえてベンチは設置しておらず『憩いの場』的ではない。だからなのか、生徒が寄り付く事はない。 これは直江にとっては喜ばしい事だった。 もし直ぐ真下にある中庭で生徒達が騒ぎ立てたりすれば、仕事に支障が出るかもしれない。そうなれば、立ち入り禁止にしなければならなかった。 生徒の為、と言うよりは一々面倒なのでそんな事態は避けたいと思っていたのだが、どうやらその心配は無さそうだ。生徒が集まらないのは肌寒い季節の所為か、と訝しみ色部校長に訊いた所、この中庭は教室が入る校舎と少し距離があり、その上以前から立ち入り禁止となっている、と説明された。どうやら観賞用の庭らしい。その話を聞いた時もまた、直江は良かった良かったと内心安堵したのだ。 人気の無い筈の中庭…… 「……」 パティオ風の中庭には名前は知らないが、美しく葉を整えられている木がある。その背の低い木が人工的に並んでいる、丁度途切れた場所に見えるのだ、 「スニーカーだな……」 今日は、黒をベースにしてラインは薄いブラウンのスニー カーが。 「……」 この前は確か、黒のエンジニアブーツだった。その前に見かけた時は、飴色のワークブーツだった筈だ。 「一体……」 常にこの理事長室にいる訳ではない。経営の仕事は学校に篭っていては出来ない種類のものも多々あるので、直江が登校?するのは多くて週に3、4日だ。そして登校すると殆どこの部屋から出る事はない。 必要な電子機器、TV、オーディオ類、快適な空調に、学校内で恐らく一番清潔に保たれた空間からわざわざ出る必要など見当たらない。用事のあるものはここへ足を運ぶし、直江の方が用事があって呼べば、直ぐにやって来るのだから。 「……」 靴が落ちていると言う事は、誰か中庭に入り込んだと言う事だ。別に倫理観や道徳観念が強い訳でもないので、立ち入り禁止区域に入るなど何事だッ! などとは思ったりしない。ただ何となく気に入らなく感じるのは、厄介事が持ち込まれたりしたら面倒だし鬱陶しいからだ。 自分のエリアの真下、と言う位置がいけない。他の場所ならば、問題さえ起こさなければ勝手にやれ、と思えるのだが、至近距離ならばそうはいかない。 感情を表すように、直江は胡散臭そうに転がっているスニーカーを見下ろした。 「しかし……」 考えてみればかなり不可解だ。 靴を落としていくと言う事は、片方裸足で歩くのか? ここは都心ではないが、直ぐに都心に出られる位置にある。生徒達は、学校帰りにそのまま渋谷や表参道、原宿辺りで遊んでいるのを知っている。 城北高校は一般の私立と同じく一応バイトは禁止しているが、学校帰りの行動まで規制はしていない。禁止した所で場所が場所だ、生徒達が真面目に従うとは思えない。 もしここが山奥ならば、遊びたくとも遊べないのだが、生憎都心に近い位置にある。高校生の年代で、それを禁止するのは酷、と言うより不可能と考えていい。 それにもし禁止してしまえば、知らない場合はいいが、もし生徒達が遊んでいるのを知ってしまった時対処しなければならない。ならば始めから、自由にさせて置いた方が楽でいい、とは直江の考えだ。無論他の教師達が、同じように考えているとは限らないのだが。 靴の種類から見て生徒の誰かだろう。そしてその生徒は、裸足で街を歩くのだろうか?決して山奥などではない城北近辺を。 「……」 おかしい、どう考えても奇妙としか言い様がない。 「何なんだ……」 靴の持ち主は、一体何がしたいのか。 「ああ」 以前に二度、違うブーツを見かけた時は、ここまで不可解に思わなかった。だがこれで三度目。三回も目撃してしまえば、気にならない訳がない。 「……」 だからと言って、別に解決しようなどとは思わない所が直江信綱と言う男だ。だが、 「……」 そこで一つの仮説が直江の頭を擡げた。そしてそれは、直江にとって、城北にとって一番避けたいものだった。 「……」 いじめ、かもしれない。 誰かが嫌がらせで、ある一定の生徒の靴を中庭に隠しているのではないだろうか? 「……」 嫌な考えに、直江の顔は増々渋いものになる。 外で遊んだり成績が下がったりはまぁ、仕方がない。歓迎で出来ないが、まぁまぁ許容範囲だ。だがいじめでは、そうはいかない。一歩間違えれば、誰かの生命の危機に発展するかもしれないからだ。 「……」 正義感など持ち合わせていない直江だが、いじめ、の行為は生理的に受け付けない。やった事もやられた事もないが、虫唾が走る事には変らない。 もしいじめがあれば、教師達は反対するかもしれないが、直江としては直ぐに退学にしようと考えていた。 「しかし……」 あくまでこれは、仮説の一つだ。だが考えれば考える程そうではないのか、思えてしまう。 これは早々に、色部に指示を出して調べた方がいいのではないか。それ以前に、あの靴を拾い持ち主を調べて…… 「……」 面白くない展開に、経営者の顔が険しさを増した時だった、 「え?」 寄っていた眉間が広がり、そのまま薄茶色の目も一緒に見開かれる。 「……」 再び直江は窓の下、例の奇妙なスニーカーを凝視する。何故なら生き物ではない筈のスニーカーが確かに、動いたからだ。 「……」 こうなれば、目を離せる訳がなかった。 動く靴などありえない。 「一体」 何が? だが運良く?直江の疑問は長くは続く事は無かった。数秒後には、疑問は解消されたからだ。 小さく上下に揺れていたスニーカーは、それから直ぐに一旦木々の中に引っ込み、 「な……」 何と、次に姿を現したのは黒く丸い塊。あれは誰がどう見ても人間の後頭部だ。そしてちらちらと見える足元は、どう見ても先程のスニーカーと同じもので。 「……」 そうか、なる程。 直江の回転の速い頭脳は直ぐに、今見ていた現象、そして過去の不思議を解明する。そして一気に脱力した。 何の事はない、落ちていたのは靴ではなく『人間』だったのだ。あの先に人間がいて、ここからは靴の部分だけが見えていたのだ。 この中庭には生徒は入り込まない、と言う固定概念から、普通なら直ぐに思い浮かべるだろうその可能性を思考から消してしまっていた。 制服を見て、靴の主が城北の生徒だと分かる。そもそも教職員があんな場所で寝ている筈がないので、生徒で当然は当然なのだ。 「……」 真実を知り、安堵しつつ段々と腹が立ってきた。いじめの可能性にあんなにも、もやもやと思考を乱されたのだ、腹も立つと言うものだ。だがその怒りも、直ぐにどうでもいいものに変化した。単なるサボりの生徒に気を揉む必要など無いのだ。 「サボり、か」 心の中で納得しつつ、だからと言って注意する方向に始めはの向わなかった。 今の時間は授業中なのだから、あの生徒はサボっているのだ。サボれば当然遅れを取り、成績は下がってしまう。そこまで考え、直江の顔は再び渋いものになった。 「……」 城北は、設備、人材、そして授業料でも『名門』だが、高校にとって一番大事な部分、進学率―――この場合有名校に限られる―――も高い位置を保っている。 この部分が下がる事は、城北ブランドに傷が付く可能性があった。それは経営者として、一番避けたい事態だ。 誰もが高い成績を保てる筈がない。中には落ち零れてしまう者だっていて当然だ。だが、その数が問題なのだ。 授業に付いていけなくなり段々と、学業意欲が落ち、そして消えていく。それは悪循環だが自然の摂理だ。 「……」 少し考え、出した結論は―――『保留』だ。 もう暫く様子を見て、それから『彼』に対する対処を決めようと考える。はっきり言って、ただ面倒を先延ばししただけなのだが教育的熱意の欠片もない男にとって、それは当然の結論だった。 「ん?」 旋毛の辺りは見えるのだが、上からでは肝心の顔が見えない。 直江の視線の先でサボりの生徒は、一度大きく伸びをした。今まで眠っていたのがバレバレだ。 「まったく……」 渋かった顔から何時の間にか冷たい色が消え、呆れたもになっているのを直江は自分で気付いていない。そして眠そうにぽてぽて中庭を出て行く生徒を眺めながら、面白そうで意地悪そうな、笑みを浮かべていたのだった。 *************************************************** 「はー」 何だあの男は。 引っ込むと、思わず安堵の深呼吸をしてしまった。 確かに激突したのは悪かった。だが一方的に責められる謂れは無い。 男は笑っていた、一見優しげな顔で。あれだけ見れば、怒っている風にはとても見えない。でも知り合いに似ているだけで、あんな風にジロジロ見るものか? 「……」 そうか…… 思い付いた答えに、高耶は納得し同時に腹が立った。 ここは二丁目で、店は明確なゲイバーではないが客の殆どがゲイだ。当然働いている高耶もゲイだと思ったのだろう。しかも女装なんかして。 「……」 珍しい、面白い、そんな所だ間違いない。 「ふんッ」 ムカつく。 今日の高耶ははっきりした少しキツめの顔立ちを生かし、黒髪のストレートのウイッグを被っていた。前髪はパッツンで、日本人形に似た感じだ。だがメイクは現代風で、垢抜け少し尖がったオシャレな女の子、と言った風に仕上がってる。グロスはあえて鮮やかな、濡れた赫が塗られていた。当然高耶にそんな腕は無い。このメイクを担当しているのが、もう一人の従業員なのだ。 そんな一見、背も高く細いのでモデルみたいな女の子が足を踏ん張り仁王立ちしている姿は、中々迫力があった。 高耶自身はゲイではないが、この環境でバイトをしている所為か、世間の消えない差別意識に辟易していた。最近では市民権を得たとか言っているが、そんなものは嘘だとこの街にいるとよく分かる。 平安時代以前から、男同士の愛情は当然のものとして根付いてきた。それが異質とし始めたのは、ほんの数十年前からで。今も何故か続いているが、この時代の方がイレギュラーなのだと声を大にして言いたかった。 ムキムキの坊主頭に惹かれるとか、童顔巨乳に興奮するとか、そんなものは個人の趣向であって、正しい、間違っている、そんなものは存在しない。要は他人に迷惑を掛けなければいいのだ。 「……」 それをあの男は面白がったのか? 「ムカつくぜ」 ぶつぶつ呟きながら厨房に顔を出すと、丁度ナポリタンが出来上がっていた。 「いい匂い……」 ミラージュのナポリタンには特徴がある。まず色がよくあるオレンヂではなく茶色に近い。味もケチャップだけではないコクがあって、オイスターソースが隠し味になっていた。焼きうどんみたいなナポリタンと言われている。そんなナポリタンは人気があり、常連はまず頼むメニュウなのだ。 「仰木さん」 「分かった運ぶから」 今日の厨房担当の兵頭と言う男は、高耶とは違いバイトではない。長く勤める兵頭を綾子はキチンと雇用していて社員扱いになっていた。 高耶も小さくはないが、長身の兵頭と話す時は少し見上げてしまう。切れ長の目にオールバックの黒髪は少し長めで。そしてマッチョではないが、鍛え上げられた体躯を持った男は大体が無表情なので、はっきり言って知らない者は一歩引いてしまう雰囲気を持っている。 だが実は、かなり無口なだけで、実際は優しい人間だと高耶はよく知っていた。おまけにこの街では、兵頭のようなタイプはかなりモテる。当然ミラージュにも、兵頭目当てでやって来る男は少なくなかった。 「これを」 「え?いいのか?」 「はい、味見です」 出来上がりの大皿ではなく、小皿に少量のナポリタンが盛られている。丁度腹が減っていた高耶は、遠慮なく出来立てを頬張った。 こんな気遣いが出来る所も、高耶の中でポイントが高い。友人、と呼ぶには少し違うのだが、いい同僚に恵まれたと思っている。 「ぅんぐぅんぐぅんぐ……はーうまー」 口の周りを汚し心底美味しそうに食べる高耶に、兵頭の表情が少し緩む。 「オレより美味いんじゃねぇの?」 「そんな事はありません」 「そうかなー」 実はこのナポリタンは高耶が教えたものだ。高耶の母親がよく作ってくれたもので、それを直々に教えてもらったのだ。まかないで作った時綾子が大層気に入り試しに店に出したところ、大好評を受けたのだ。 「兵頭は?食べないのか?」 むぐむぐ頬を膨らませる高耶に、兵頭ははい、と頷いた。 「わしはもう済ませました」 「そっか、オレ今日終わりまで飯無しかと思った。これ食えてラッキー」 言いながらむぐむぐ頬張る。 今日もギリギリに入ったので、バイト前に何か食べる時間が無かった。なので終わりまで空腹を抱えたままだと覚悟していた。一応育ち盛りなので、夜中まで飯抜きはかなりキツいのだ。 へら、と笑うと冷たい印象の美少女が、途端に可愛い女の子に変化する。それを確認し、兵頭は自作の出来栄えに満足気に頷いた。 「何か今日のメイク、皆褒めてた」 ブスッとして然して嬉しくなさそうな高耶に、兵頭は小さく笑う。 「そうですか、でもわしは嬉しいです。仰木さんがモデルになってくれると助かる」 兵頭はヘアメイクの仕事を持っている。ミラージュとメイクとどちらが本職だと訊かれれば、両方、と答えていた。だが最近徐々にヘアメイクとして売れ始めてきた兵頭の為を思い、綾子はそちらを優先させるように言いつけている。それを知った高耶は、意外に優しい所もあるんだ、と嬉しくなった。だが真相―――店の宣伝目的―――を知った時は、ガックリ、と同時に激しく納得したものだ。 ファッション界にはゲイがとても多い。芸能界、ファッション界の人間がたくさん来てお金落としてってくれたらラッキーじゃない、とはオーナー綾子の発言だ。流石だ、と感心する他なかった高耶なのだった。 「仰木さんは髪も肌も綺麗じゃき、楽しくメイクが出来る」 無表情で淡々と言われても、ちっとも褒められている気がしない。そもそも内容からしてアレなのだが。 「そ……ですか……」 嬉しくない、全くもって嬉しくない。 「いーよもう……どうせオレに拒否権無いんだし」 「でも、仰木さん以前程嫌がっとりませんね」 淡々と兵頭は地雷を踏むのだ。 「う」 高耶は思わず心臓の辺りを押さえてしまう。 「いい傾向ですき」 「……」 綾子と違い、揶揄う気配が全く無い兵頭に怒るに怒れず、高耶は女にしてはしっかり、男にしては華奢な肩を落としてしまった。 「これ、暖かいうちに」 「あ、そうだそうだ」 こんな事している場合ではない。温かいものを温かいうちに、は食事の基本なのだから。 慌ててナプキンに包まれたフォークを引き出しから取り出し、兵頭からナポリタンを受け取ると高耶は慌てて表に戻っていった。それを見送り兵頭は、先程から煮込んでいるビーフシチュウを掻き混ぜたのだった。