My Dear Dad
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義息子直江 義父高耶 直江は高校生の時父を亡くし、それから母が女手1人で育ててくれた。そんな母が再婚すると言う。 気持ちは複雑だが直江ももう大人だ、心よく祝福しようと決める。そして母が連れてきた再婚相手を見て、絶句。何と新しい父親は、自分よりも年下のまだ学生の高耶だったのだから。 ラブコメ・シリアス・過去 表紙・草木美花様 188ページ フルカラーオフセット
お義父さんは年下?!
「あらやっと起きたの?お早う」 「……」 母は一人ではなかった。 座卓に着き、直江に背中を向けているのは間違いなく男だ。母の婚約者に間違いない。 「ッ」 そして直江が息を飲んでいる間にゆっくり、その男は振り返った……が、 「え?」 思わず直江は声を上げてしまった。何故ならクルッ、と振り返り挨拶をしてくる相手がどう見ても、 「お早う」 「……」 直江よりも、年下だったからだ。更に言えば、若い以前に学生位にしか見えなかった。 勢いよく振り返ったのと同じ、目もくるくるしている。真っ黒い眸が綺麗だ、漠然と直江はそんな事を思った。 「何ですか一体……」 直江の躯から一気に力が抜ける。この少年が誰なのかは知らないが、直江の待つべき相手ではなかった。 「驚かさないでください」 言いながら腰を下ろし、三人で大きな座卓を囲む形になった。 目の前には直江の分のお茶が置いてあり、冷めてしまっていたが美味しいものだった。 「美味しいですね、茶葉を変えたんですか?」 息子の言葉に母はにやにやまるで、子供のように笑っている。 「違うわよ、茶葉は変わってないの。これ高耶君が淹れてくれたのよ?ほんと美味しいわよね」 自慢げに言われ、直江は改めて高耶、と母が呼んだ少年を見た。 「あの……」 誰ですか? 暗にそう訊く直江に高耶は、目をきらきら輝かせながら答える。 「高耶です、仰木高耶だよ」 「高耶さん、ですか?それは分かりましたがそうではなく……」 一体何者で、ここで何をしているのか訊きたかったのだが。そこまで考え、直江はハッと息を飲む。 「……」 判断力には自信があった。それは仕事上如何なく発揮され、今の立場を直江は築いてきたのだ。そんな直江の推理の中身は、この少年が、相手の連れ子、それだった。 「……」 母と同年代ならば、相手も再婚でも不思議ではない、そして子供がいても。実際春枝にも、信綱と居言う息子がいる。 「高耶、さん」 「はいッ」 余程緊張しているのか、高耶の声は引っくり返ってしまった。それを見て、直江の心にゆとりが生まれる。 自分よりも、彼の方が緊張すべき立場なのだ。 直江はまだ家を変わる訳でもないが、高耶は実際引っ越して来るのだろうから。 「これからよろしくお願いしますね」 「あうッ」 直江の言葉に、高耶はこれ以上ない程目を見開く。真ん丸になった黒い眸は、今にも零れ落ちてしまいそうだ。 「……」 可愛いと、すんなり思う自分に直江は驚く。 子供が嫌いとは思わないが、特別好きとも可愛いとも思った事が無い。考えた事がない、と言った方が正しいのか。 そんな直江なのだが、目の前の緊張にかちかちの少年がやけに可愛いものに見えた。 だが話しはこれからだと、それまで黙ったままの母親に向き直る。 「それでお母さん、まだいらしてないんですか?」 「誰が?」 「誰がって……昨日言ったのはお母さんでしょう?何時頃来るんですか?」 苛立ちを隠さない息子に、母親は鼻を鳴らした。 「何よ、昨日言ったのってあたしの結婚する人でしょう?」 「そうです、決まってるでしょう」 「だったら来てるじゃない」 「え?」 来てる?結婚相手が? 「何を言ってるんですか一体」 「この人」 「え」 直江の棘のある言葉にだが、春枝は澄ました顔ではっきりと言い放つのだ。 「あたしが結婚する人」 「え……」 見間違いじゃなければ、春枝が見ているのは高耶だ。 「……」 一瞬目を見開いたが、直ぐに深い溜息を吐いた。 「はいはい、分かりましたから……それで、本当に何時来るんですか?」 全く相手にしていない直江に、春枝はあくまでも冷静だ。 「高耶君」 「はい」 「これが信綱……直江よ」 「はい……」 そして高耶は真っ直ぐに直江を見詰めた。 「……」 この眸を見れば分かる、この少年は本当の事しか言わないと。 それを直江は理屈ではなく本能で感じ取ってしまった。 そして、 「今度春枝さんと結婚しました。この家で一緒に暮らすから……よろしくな」 「…………………………」 そしてダメ押しに、 「あ、ダディって呼んでいいからなッ!」 笑顔全開で高らかに告げられた言葉に、今度こそ、直江に逃げ場は無かったのだった。