チャリンコTAKAYA
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大事な大事なバイクを盗まれてしまった高耶の苦悩と奮闘、そしてそれを取り巻く人々の心温まらないストーリー。 バイク乗ったり車の助手席だったり走ったりしてる高耶だけど、チャリで漕ぎまくる高耶って見たことないな……と思い書いてみました。 原作設定(2巻のちょっと後)シリアス度ゼロ・当然頭悪い話 32ページ コピー本
翼(バイク)の折れたエンジェル……ではない……
忽然と姿を消す、そう、正に「忽然」だ。 「……」 そこにあった、ある筈の空間をギリギリ見詰めながら、天?に多分いるらしい毘沙門天に祈る。 「……出してくれ」 もしいるなら出してくれマジで。 「出して」 そう言えば、この前クラスのやつから借りたAVに出てた女優が言ってたっけ、出して、って。あんまり好みじゃなかったからいまいち盛り上がれなかったけど、とりあえず我慢するか、とオレが固くなり始めたチンコを出そうとした時だった、 「お兄ちゃん帰ってるの?」 と、ガチャガチャ音を立てながら美弥が帰って来たのは。あれは本当に焦った、今でも焦るまだ焦る。 ギリギリセーフだったのだが、もし「最中」だったらと思うと心底ゾッとする。はっきり言って、初めて怨将に襲われた時より遥かに恐怖だ。 「……いやいやいやいや」 逃避はだめだオレ、今はそんなどころじゃない。 「……」 昨日、確かにここに停めた。しっかりキーをしてカバーかけて。団地の駐車場には団地の住人のチャリかバイクしか停めてない。だから何時もここに、何時もの場所に停めとくのに…… 「これは」 やられたのか? オレはバイクを、大事な大事な大事な!バイクをパクられたのかッ?! オレのスズキGSX250R、ちなみに黒! 「……」 この脱力感は覚えがある。直江とか言う胡散臭い坊主(あれで!)がオレを虎とか豹とか言った時に感じたあれだ。否、今はそれ以上のショックで、完全に打ちのめされていた。 「……」 盗まれたバイクが見付かる可能性なんて、ゼロに等しい事くらい知ってる。だから探しに行く気力なんて、 「……ねぇよ普通」 はぁ、溜息が心に痛い、マジで痛いぜ。 「心が折れそう……」 自分の声が哀しい。 トボトボと団地の階段を上がっていく後姿は、間違いなく涙を誘う哀れさを醸し出していただろう。 団地の安っぽいドアを開き、しおしおのまま部屋に引きこもりベッドにごろん。 「はふー」 目に映るのは、古ぼけて歴史を感じる天井だ。今ここに怨将が出てきたら、間違いなく調伏だ、一発で。怒りパワーでこの団地は吹っ飛ぶだろう。 ムカつく怨将達は粉々に砕け散り、ははは、とオレの高笑いが天に響き渡るのだ。 そこでハタ、と妄想劇場が終わった。 「……むなしい……」 現実逃避は、心の薬。だからそれを赦して欲しい。 「……」 バイク……オレのバイク…… どうせ戻ってこない、だったら考えない方がいい。だが、そう思えば思う程、脳裏にガンガン浮かんでくるのはGSX250R。 考えたくはないが、この先暫くは鬱々状態が続くに違いない、何て可哀相なんだ。 「可哀相なオレ……」 「誰がカワウソだって?」 「どわッ?!」 〟呆れ〝が濃い声に、思わず飛び上がってしまった。 「み、美弥ッ」 「誰が〟みみや〝よ」 「違―うッ!」 ウガー、と吠えて見ても、愛する妹は白けた顔だ。 「おい美弥、人の部屋に勝手に入って来るたぁいい度胸だ。人間社会にはな、ノック、って言う大事なナマーがあるんだよ。お前な、ノックをしない者は人にあらず、って言葉知ってんだろ?」 「それは知らない」 「……」 そうだろう、オレも知らないのだから。 「それより」 「したよ」 「え?」 オレの言葉を遮って、美弥はシレっと言い放つ。 「ノックはした、何回もね。でも返事が無いから入ったのよ。ちなみに入ってから4回名前呼んだんだけど、何か楽しそうだったから邪魔しちゃ悪いと思って見物してた」 「……」 「お兄ちゃん」 「……なんですか……」 嫌な予感に、恐る恐る顔を上げてみる。そこには微妙に似ている、と言われる結構レベルが高いらしい妹の顔に満面の笑みが広がっていた。 「ねえ」 「……」 「バイク」 「……」 「どうしたの?」 「……」 「駐輪場の何時もの場所にないみたいだけど、誰かに貸したの?」 珍しいね、と笑う顔は悪魔のそれだ。 「……用件を言え」 眼光鋭い〟深志の仰木〝の睨みも、この妹にとっては鼻クソみたいなもんで……むなしい…… 「用件?あ、そうそう、電話」 「へ?」 「だから電話」 掛かってきたし今待たせてる、そんな美弥の言葉にハッと我に返った。 「お前ッ、それ早く言えッ!」 慌ててベッドから飛び降りると、ダッシュで廊下にある電話台に走る。走ると言っても狭い団地だ、数歩で数秒、それしかかからない。