いつか 王子さまが
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王子様直江 大学生高耶 人には言えない内容の夢を見続けていた高耶はある雨の夜1人の男を拾ってしまった。男は何と異世界からやって来た、大国の王子だった。 元の世界に戻れるよう協力する高耶だが、とんでもない裏事情に巻き込まれ…… 「皇帝陛下」シリーズのパラレル……っぽいです パラレルなので、読んだことない人も全然問題なく読めます 甘味、コメディ、シリアス、異世界 56ページ コピー本
王子様は役立たず
バシャバシャ バシャバシャ そろそろアパートに着く。あの角を曲がったら直ぐだ。 ゴール間近になり、高耶の走るぺースが上がった。 角を曲がる直前に、ゴミ捨て場がある。曜日によってゴミの種類は決められていて、高耶もきちんと分別して出していた。レポートなどで忙しい時期は溜めてしまったりするのだが、基本綺麗好きな高耶は定期的にゴミを出しているのだ、が、 「……ん?」 ゴミ捨て場を走り過ぎて2歩の所で角を曲がる。曲がった所で高耶は足がピタッと止まった。 「ん?」 今、何か見た? 暗いし雨だし走ってたし、勘違いの可能性大だと自分でも思う。 だが、気になったのだから確認するのが通りだ。 遠い場所なら面倒臭いので諦めるが、今現在〟気になっている〝のはここから数歩、10秒も掛からない距離だ。 なんて考えている間に高耶は〟気になっている〝場所で硬直していた。 「……」 脳裏には、見なきゃよかった、の後悔と、気付いて良かった、の安堵の2種類。 基本人の良い高耶なので、96%が後者なのだが。 これ、 「ゴミ……?」 いやいやいやいや、そんな訳がない。 この、一応は法治国家で、これ(・・)をゴミと呼ぶのは拙いだろう。それにししても、 「……うーむ」 こんな事態に直面してしまったのは初めてで、暫し高耶は雨の冷たさを忘れ立ち尽くしてしまった。 ゴミ捨て場には、都の指定ゴミ袋が10個以上並んでいる。 そのゴミ袋をまるでクッションのようにして上に乗っているのは間違いなく、 「人間、だよなぁ」 やれやれ…… それが正に高耶の正直な感想だ。 気付かなければ、当然気にならないし責任もない。 だが高耶は見てしまった、見付けてしまったのだ。 厄介なのは高耶が、ここで、見なかった見なかった、と無視出来る便利な性格をしていない点だ。 「……」 首筋に入り込んだ雨に、ひやり、と高耶は躯を震わせた。 寒い、冷たい、早く熱いシャワーを浴びたい。だがこれを放っておく事も出来ないでいた。 「うーむ」 身を屈めて高耶はそれに顔を近付ける。 仰向けになっているそれは、両手を広げた状態で、だらんとゴミ袋の上に乗っていた。 顔は俯いているので見えないが、意識が無いのは確実だった。 「おい」 軽く揺さぶってみる。 「おい、起きろよ」 がくがく、今度は少し強めに。 「おい、ってば」 がくがくがくがく、何度か揺すっている内に力が入ってしまったのか、ガクン、とそれの首が逆側に落ちてしまった。 「わ」 そして驚く事に仰け反った形になった首の上には、 「はー」 思わず感心してしまうレベルの顔が付いていた。 「ひゃ~」 目を閉じていても、日本人じゃないと分かる顔立ちだ。それどころか、彫刻を思わせる均等の取れたバランス、彫りの深さは正に絶世に美男子、と言って過言ではない。 美男子、など死語のような気がするが、この顔に対し一番しっくりくる言葉なのだから仕方がない。 「……」 雨やら風邪やらを、高耶は一瞬忘れて見入ってしまった。 女ではないのでポーッ、となどしないのだが、純粋に観賞用として感心してしまうのだ。 はっきり言って、見応えがある。俳優かモデルか、何にしてもこんなにも目立つ顔だ、その手の商売をしている可能性が高い。 だとしたら有名人が、こんな所でゴミと一緒に同化していていいものだろうか。 「うーん……ッ、くしッ」 クシャミが出て、一気に寒さを思い出した高耶は慌てた。 こんな所に結構長く居てしまった、これは風邪を引いてしまう可能性が高い。 「おいッ、起きろよッ」 お前の所為で、オレも風邪引くじゃねぇかッ 八つ当たりも込みで高耶はガクガク強くそれを揺さぶった、が、 「お?」 息はしているのに、ここまでして起きないのはおかしい。 「……」 もしかして、と掌をそれの額に当てて、 「!」 熱い、尋常じゃない熱さだ。 「ちょッ」 一瞬パニックになった高耶だが、直ぐに冷静さを引き戻した。 「ぅ、しょッ」 それの躯を引き起こすと、片手をしゃがんだ自分の肩に引っ掛ける。 そのまま力を入れて、立ち上がった。 「くッ」 重い、重いぞこれッ 引き上げて気付いたが、高耶よりも遥かにそれは長身だった。 顔が小さいので気付かなかったが、これは190はあるのではないか? 確実に高耶よりも重く、しかも力が抜けている。 力を抜けている人間の重さを、高耶はよく知っていた。飲み会で潰れた譲を運んだ時、細身の躯がとんでもなく重かったのだ。 こんな物体をアパートまで運ぶのは、普通に考えて不可能だ。しかも高耶の部屋は2階なのだ。 やはり高耶は自分で気付いていなかったが、かなり動揺していたらしい。 落ち着いていれば、その場で直ぐに救急車を呼んでいたに違いないのだから。 自分には手に負えないと分かるので、確実な機関に任せるのが一番、と判断しただろう。だが、 「くーッ」 高耶は肩に背負い、ずるずる引き摺りながらも階段下までやってきた。 「は、は、は」 息が荒いが、ここで休めば永久に進めなくなるのは分かっている。 間違いなく〟火事場の馬鹿力〝だと、後々高耶は思うのだ。 何故なら自分の持つ力の、数倍の怪力を発揮したのだから。 有事において、ありえない力を出す、これは脳が関係しているらしいが、そんな事情は高耶には関係ないし興味も無かった。 「ふんがーッ!」 だただた、これを部屋の中に運ぶ、それのみに没頭していたのだから。 「ふ、んがーッ!」 既に、寒さは欠片もない。 腕も足も顔も頭も血が上り、高耶は顔を真っ赤に染めてハルク並みの怪力で―――普段の高耶比較なのだが―――意識のない それを玄関の前まで引き摺ってきた。 「はッ、はッ、はッ」 ぜーぜーぜーぜー、荒い息が耳に煩い。そしてとうとう、 「ふ、ん、がーッ!」 高耶は玄関内に連れ込む事に成功したのだった。