記紀神話と『先代旧事本紀』の記述差異に関する一考察
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序論 日本古代における神話・歴史叙述の基礎史料として、『古事記』(712年)および『日本書紀』(720年)は国家的事業として編纂された正史的性格を有する。一方、『先代旧事本紀』(以下『旧事本紀』と略す)は、成立年代や編纂主体に諸説があるものの、忌部氏や物部氏の系譜を背景とした史料として位置づけられることが多い。その記述は「記紀神話」との共通性を示しつつも、独自の神名・系譜・神宝伝承を伝えており、両者の差異は古代氏族間の政治的・宗教的対立を反映するものと考えられる。本稿では、記紀神話と『旧事本紀』の相違点を、①神代記述、②祭祀と神宝伝承、③氏族意識の投影、の三点から比較考察する。 本論 1. 神代記述の差異 『古事記』『日本書紀』は、天照大神を中心とした皇祖神の神話体系を明確に構築し、天孫降臨神話を皇統正統性の基盤とした。それに対し『旧事本紀』は、「天神本紀」「地祇本紀」などにおいて天神七代・地祇五代の系譜を記し、特に饒速日命の降臨譚を強調している。饒速日命は物部氏の祖神であり、天孫邇邇芸命と並置される存在として描かれる。この点は、記紀が皇統を一元的に正統化するのに対し、『旧事本紀』は複数の天降り伝承を併置し、氏族間の多元的正統性を示すことを特徴とする。
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