一行禅師は九執暦を写したのか?―大衍暦における正弦表―
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開元21年(733年)、インド暦法書『九執暦(きゅうしつれき)』撰者・瞿曇悉達(くどんしった)の子・瞿曇譔(くどん せん)と陳玄景(ちん げんけい)とにより「『九執暦』から剽窃した不完全な術である*1」と告発された『大衍暦(たいえんれき)』。太陽と月の中心差や日月食の計算方法については詳しく知られていますが、告発されるほど粗悪な「剽窃」だったのか、正弦表について階差数列をカギに再確認する小論文です。(2021年11月22日公開)
官僚の言いがかりか? 万物に易理を見出す唐僧の「方便」か?
計算方法についての検証は藪内清『隋唐暦法史の研究』(三省堂・1944年)で尽くされていますが、一行禅師が具体的に何を参考にしたのかという内容は「当時、中国の天文学者たちはインド天文学者による計算結果を借用したまで*2」と切り捨てられ、月の緯度や惑星の中心差に応用された「正弦表」についてはあまり知られていません。 そこで本論では『九執暦』推月間量命における「正弦表」と『大衍暦』五歩交会術における「陰陽積」とを比較し、後者を導く手順を検証することで、官僚に「不完全な術」と非難されるほど粗悪な「剽窃」なのかを再確認した小論文です。 中国語の解説書を探っても「他国から術理を盗んだ」という疑惑は触れられていなかったので、陰陽寮・暦生のテキスト『大衍暦議』で解説される暦法『大衍暦』の一部を参考に読みやすいよう短くまとめました。 *1 『新唐書』巻二十七上、志第十七上、暦三上 参照 *2 藪内清『増補改訂 中国の天文暦法』平凡社、1990年、101頁 参照
目録
一行禅師は九執暦を写したのか?―大衍暦における正弦表―_表紙.pdf 表紙(1頁) 一行禅師は九執暦を写したのか?―大衍暦における正弦表―.pdf 本文(5頁) 序論 1. 『九執暦』および『大衍暦』における正弦表 2. 「陰陽積」の三差と四差 3. 「陰陽積」を導く手順 結語 後注 参考文献 表1-4(3頁)