A Certain Fable
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2021年11月07日ビッグサイト【一つ屋根の下9】にて発行 A Certain Fable はるゆづ/キラキン+ALL CAST/文庫/166p ◎ウィザードオブフェアリーテイルパロ ◯99%捏造 ◎キラキン+誰か、の短編集 ◯登場にかなり偏りがあります ◯設定上呼び名が違っていたりします ◯時系列はバラバラ ◯個人名をアルファベット表記からカタカナ表記に変えています ※例の特典カード等なにも見ていないので何か矛盾あるかもですがそういう別の世界線なんだなということにして下さい。 いつも通り好き勝手してるパロになります。 魔法学校なんてみんなしぬほど書くだろうなって思ったので双子を担当させていただきました。にこっ!みんな書いて!! 今回も雰囲気で読んでいただければと思います。 サンプルはランダム抜粋です。 あんしんBOOTHパックでの発送になります。
目次
目次 ◯ある挿話 キラキン (再録) 課題決めの話 ◯所詮ひとごと THRIVE/アカネ/ハルヒ 派手な喧嘩に通りかかるふたり ◯ジャムが足りない キタコレ/ミカド/ミロク ティーパーティに強制参加 ◯あのこの棘のぶぶん シュウジ/ユヅキ/ハルヒ 飛行術の授業にて ◯ミルクティと白昼夢 カズナ/ヒカル/ハルヒ/ユヅキ 謎の種とその弊害と対処について ◯キャンディでゆるして MooNsの精霊(Bモン)/カズナ/モモタロウ/タツヒロ/ミロク/ユヅキ カズモン探しと精霊との会話について ◯ほらお見通し ケント/ユウタ/ユヅキ (再録) ユヅキの実験とチューリップの花言葉 ◯少年と少年の共生論 サクタロウ/ユヅキ 双子の正体について ◯ある寓話 キラキン 実習(準備)中のアクシデント
本文サンプル
◯ジャムが足りない 考え事をしていたら、うっかりどこかの物語に入り込んでしまった──かと思った。どきりと止まったように感じた鼓動が、びっくりした、とゆっくり吐き出す呼吸と一緒にどくどくと動く。 何かしらの物語だと言われても納得出来てしまいそうな、ぼんやりしていたところに突然現れたらそう思っても仕方がないと言い張りたくなるような光景に、ミロクは意識してぱちぱちと瞬いた。こちらに微笑む見知った顔に、小さく肩を竦める。 「すみません、お邪魔してしまいました」 「いや?ここに来れたってことは、ここに来る理由があったってことだから」 「はい?」 低めの穏やかな声は、優しげな笑みを含んで暖かい。が、何を言っているのか判らないことが多いのは否めない。言い回しが婉曲だったり独特だったり、今までミロクが育ってきた環境には居なかった人種なのだ。この、目の前で優雅にティータイムを楽しんでいるらしいトモヒサという男は。 「まあ、座りなよ」 「はあ…」 確かミロクは本校舎の廊下を実験室からカフェテラスへ向かって歩いていた筈だ。いつもの個人的興味を満たす為の実験が行き詰まり、気分転換に休憩がてらコーヒーの一杯でも飲もうと思っていただけだった。ここまで優雅で完璧で見事な英国風のアフタヌーンティーセットを求めていたわけではないのだが、とトモヒサに勧められるままに椅子を引きつつ、改めて周囲を見渡して首を傾げる。全く見覚えのない場所ではあるが、どこかのバルコニーなのだろう。広い面積はさもこうして天気の良い午後に外でお茶を飲む為に作られているように見えるのは、バルコニーの外側の精緻な装飾のせいだろうか。白と珊瑚色の石造りの中に、アクセントのように青い装飾が混じる。間近でよく観察せずとも、あれはラピスラズリを削ったものだろうか、と見当をつける。その装飾といえば思い当たる建物はひとつしかなく、更にはその向こうに見えた樹々の並びに、ミロクは確信を持って眉を上げた。この建物には入ったことがなくても、あの北の森には何度も入ったことがある。 「え?寮ですかここ?」 「うん、俺の部屋だよ」 つい、と何気なく立てられた人差し指が示す先を振り向けば、半分開いた大きな窓にカーテンがゆるやかに靡いている。白いレース越しに見えたその先には、簡素なベッドに背を向けて、引き出しの多いテーブルセットが鎮座している。ミロクにも見慣れた、寮の備品だ。個人の部屋のひとつひとつにこんなに大きなバルコニーがついているとは思えないから──設備というよりは建築上の問題で、そこまでの面積はなかったように思える──、きっと特別な部屋なのだろう。そういえば異様に見晴らしがいいな、と少しばかり遠い目にもなる。 「それで、どういうことですか?なんで俺はここに」 「うーん、廊下を歩いてた?」 「歩いてましたね」 「カフェテラスの上の階の、回廊の端にある鏡の前を」 「…通りましたね」 「うん、じゃあそこだね」 「え?」 だから何がだ、と強くは言えない。尊敬出来る先輩だから、というのもあるが、なんとなく他の人と同じようには話せない、なんというか、オーラのような、威圧感のようなものがトモヒサにはある。萎縮はしないが、少しばかり気後れしてしまうのは事実だ。別にそれを表に出そうとは決して思わないが。 (後略) ◯あのこの棘のぶぶん よく晴れた青い空。気温は高くもなく低くもなく、南からの風は微風、太陽の近くには都合良く薄い雲がかかっていて眩しくもない。 わざとらしいまでにお誂え向きの青い上空を、無数の箒が縦横に飛び交っている。ユヅキは自分の箒に寄りかかりながら、地に足をつけ、その光景をぼんやりと見上げていた。隣には、つい先程医務室の先にあるサンルームからユヅキの首根っこを掴んで──比喩ではなく本当にまるで猫のように首根っこを掴み上げて──この競技場まで引き摺り出してきた講師のシュウジだけが立っている。クラスメイトは皆、空の上だ。 「ったく、今日は中間課題出すぞって言ったろうが」 「うっかりしてました」 「嘘つけ」 ハ、と鼻で笑われても、肩を竦めてシラを切るしかない。小テストより昼寝を取ったとこの担当講師にひと言でも漏らせば、今度は首の後ろで宙吊りにされるよりも酷い目に遭うに違いない。とはいえ少しばかり苦しくはあったが勝手に自分でごく軽い浮遊魔法をかければそれはもう、楽な移動方法であった。これも口に出してはいけないが、まあどちらもシュウジは承知の上だろう。 ユヅキは改めて空を見上げる。薄青のよく晴れた、良い昼寝日和である。天井の半分までガラスで覆われたサンルームで過ごすには、この時間が一番心地良かっただろう。授業が始まって五分も経たずに転移魔法でサンルームに現れたシュウジには、割合に理解してもらえるのではないかとは思うのだが。だっておそらく、授業開始と共にユヅキの姿が見えないとなった時に、たまにふらりと授業を抜けるユヅキのいつもの行動パターンと、今日の気候と、時間帯を考えた最初の候補がサンルームだった筈なのだ。まんまと見抜かれた形にはなるが、裏を返せばシュウジだって今日はあそこが一番心地が良いと思っているということではないか。 ──などと、未練がましくサンルームへ想いを馳せていれば、聞いてるのか、と軽くこめかみを小突かれる。いて、と痛くもないのに言うだけ言っておいて、ユヅキはもう一度肩を竦めた。お小言は続いていたらしいが、全く一切聞いていない。 クラスメイトたちのように上空へ飛ばなければいけないのだが、おそらく今はこの後のテストまでの自主練習時間だ。もしくはユヅキを探しにシュウジが不在になる間の自習時間というところか。まだ集合の声はかけられないから、ユヅキは寄りかかった箒の柄の先に両手を乗せ、ついでに顎も乗せる。 (後略) ◯キャンディでゆるして (前略) 違うみたい、と小さく呟いたユヅキの視線は木立の影にじっと注がれている。確かに小妖精であれば隠れはせず勝手に寄ってくるな、と首を傾げて、ミロクは念の為にユヅキに一歩近付いておいた。と同時に、ユヅキの見つめる樹の影から、ぼんやりとした紫色の何かがひょこりと現れた。うっすらとしていたそれは、徐々に鮮やかに形をとっていく。樹の影に体を隠してちらりと顔を出したのは、見覚えのある精霊だった。 「ノメさんの…?」 「だね。なあに?」 どこかおどおどとこちらを見上げる三白眼は、きょろきょろと周囲を見渡してから、ようやく樹の影からのそりと体を出した。特に気負わずにすたすたと近寄るユヅキを慌てて追えば、別の寮の先輩であるタツヒロの契約精霊であるノメメの方が思わずといった風に一歩下がる。恥ずかしがり屋なんだ、と困ったように言っていたタツヒロの姿を、そういえばと思い出す。ユヅキは知っているのかいないのか、目の前まで近寄ったところですとん、としゃがみ込んだ。精霊にしては身体の大きな──ミローラより少し小さいくらいだが、その時点で充分大型である──ノメメはしゃがむユヅキと同じ程度の目線の高さで、それでもおずおずと上目に見上げてきた。ぱたぱたと腕と耳が細かく動いて、何かを伝えようと口もぱくぱくと開く。 妖精と違い、基本的に、精霊は人間の言葉を喋らない。契約した魔法使いの魔力の与え方と訓練によっては少しばかり話すことも出来ないことは無いようなのだが、そこまでするにはそもそも精霊本人がそうしたいかどうかに大きく左右されるから、どう考えても奇跡が起きるか相当変わり者の魔法使いと精霊が組まなければ実現しないだろう話だ。その点妖精は人間を揶揄ったり誑かす為だけに面白半分で人間の言葉を覚えるのだから、ある意味全てが変わり者なのだろう。 ともかく、だから精霊の言葉は人間には判らない。向こうも完全にこちらの言葉を理解している訳ではないらしいのだが、それでも契約した相手同士だけであれば、ある程度の意思の疎通は可能である。契約者とは感情の一端を共有することになるから、はっきりとした言葉は判らずとも、例えば喜怒哀楽の感情ははっきりと判るのだ。そこから行動や表情で推測するしかないのだが、それでも感情の方向性が判れば概ね問題はない。 が、しかしそれはやはり契約した精霊に限ったことである。精霊の発する『声』は、例えば動物の鳴き声とも、魔具や魔導具の鳴らす無機質なものとも違う、どこか不思議な音である。個体差があるのかどの精霊も違う『声』を持つが、精霊同士では人間同士のように問題なく『会話』が出来ているようだった。 だから何かを話したいらしいが何も伝わらないんだよな、と少しばかり残念に思いながら見守っていれば、ぱたぱたと動くノメメの手や耳をぼんやり見ていたユヅキが、不意に頷いて、ミロクを見上げた。小さく傾げた首に、闇のように黒い髪がするりと落ちる。 「カズナ先輩の…カズモン?だっけ?あの子探してるんだって」 「え?」 「見てない?」 「…見てないね」 そう、と小さく肩を竦めて、ユヅキはノメメへ視線を戻した。見てないって、と告げて、抱えた膝で頬杖をつく。 「ひとりで探してるの?」 小さく首を傾げるユヅキに、ノメメも同じ方向に傾く。おそらく首を傾げているのだろうが、体型的にどこが首なのかは判らないし、全身が傾いている。その光景に、ミロクもおや、と首を傾げた。ノメメは最初からひとりでは無いのだが。 (後略)