雪匂ふ、夜の
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サイズ:A5 形 体:コピー 頁 数:40頁(表紙込) 発行日:2023.05.03 いつもと違う、他本丸でそれぞれ顕現された二人によるくりんば話。なお顕現年次が30年ほど離れている上に、大倶利伽羅は元ブラック本丸出身です。23.03.19に発行した同タイトルの本の完全版となります。 刀剣破壊、ブラック本丸での話を含みますので、苦手な方は回避をお願いします。また審神者を含む、独自設定が多く出てきますので、こちらもご注意ください。全編ほぼシリアスで押し通しております。
雪匂ふ、夜の
「国広。眠いならとっとと風呂に入れ」 「あぁ…いや、あんたの淹れてくれた茶が飲みたい」 焙じてくれたんだろ、わざわざ。良い香りがする、疲れが溶けるような、良い匂いだ。 ふにゃりと笑っていそいそと広げていた新聞を畳んで卓を開ける国広の前に、軽い溜息と共に湯呑を置いてやる。熱いから気をつけろ、と注意することも忘れずに。 「…あんたに、美味い物を食べさせてやりたいって、思ったんだ」 「うん…?」 湯呑で指を温めながら、火傷をしないようにちびりちびりと茶を啜る合間に、国広がぽつりと漏らす。 「あんた、あの本丸で食べ物を口にしたこと、なかったろ」 俺が踏み込んだ時に確認したが、あの本丸の厨は随分長い間、使われた形跡がなかった。 それに、俺が作った飯を薦めた時に、あんた、全く反応がなかったから。そうだな、まるで、食べるって事自体が分からないみたいな反応だった。 「あんたの握り飯が俺の初飯だ」 目の前で握り、二つに割って、一緒に食ったろう。口を利かない俺が毒を警戒しているのかとでも思っていたのか、と尋ねれば、まあそうだなと頷き返してくる。まさか、声が出ないとは思わなかったからなと眉を顰めて。 「ずっと無表情で、無言で。情緒死んでるのかと思った」