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サイズ:A5 形 体:コピー 頁 数:32頁(表紙込) 発行日:2023.08.13 警視庁勤めの藤田警部補が亡くなるまでの話。土方さんもちょこちょこ出てきますが、全体的に薄暗い。
夏の霜
(前略) 『夏の霜、ってやつか』 『はい?夏に霜なんて降りないでしょう』 溶け出すような暑さも漸く和らいできた夜半、宿に戻る道すがら。川沿いの道を二人きりで歩いていた。 『本当の霜じゃねぇよ』 呆れたように首を振る土方さんに、俺は頭を捻る。 『夏の夜、月の光が地面を照らすのがまるで霜の様だっていう、夏の季語だ』 ほら、道のそこここが光ってるだろ、霜が降りた時みたいに。そう言って差し伸べた掌が月の光で白く輝いている。 『ああ、なるほど。わかるような気がする』 初めて会った頃は行商をしていたせいか、もう少し肌の色が濃かった気がする。すぐ日焼けをする近藤さんや永倉さん達に比べれば色白で、黒くなりにくい性質なのだろうとは思うけれど、今の様な白さではなかった。 新撰組が大きくなるにつれて、内務を一手に引き受けている土方の仕事は増える一方だ。 道場に来ることが減り、食事も共に取らず、大体部屋に籠っていて、しかつめらしい表情をいつも浮かべている。一般隊士にとってはむしろ、近藤さんの方がよほど話しかけやすい、そんな言葉も良く耳にする位だ。もっともそれを耳にしたあの人は狙い通りだなとほくそ笑んだのだけれど。 (後略)
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