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サイズ:A5 形 体:コピー 頁 数:24頁(表紙込) 発行日:2023.12.31
世継榾
初めて迎える京の冬。しんしんと底冷えするのは日野も同じだけれど、より寒いような気がするのはやはり家の造りの違いだろうか。 虫籠窓から外を眺めれば、昨日降った雪が溶けずに残っていて、近所の子供が作ったのか、歪な雪だるまが何体も並んでいる。小さいのが三体、妙に大きいのが一体。なるほど、先程聞こえたくしゃみはあれの所為か、と思い至る。俺よりでかいなりをして、ガキに交じって濡れた着物ではしゃいでたな、あの馬鹿。 視線を上げれば白橡の空。暗くはないが、明るくもない曇り空が広がり、吸い込んだ空気は肺を刺すような冷気を孕んでいる。雪を渡ってくる風に少し身震いすると、襟元に巻いた首巻きを巻き直す。山の方の空が灰に沈んできたから、また夜半には雪になるのだろう。 新選組の名を拝命した八月の頃は、気が遠くなるような暑さだった。着ていた着物がぐっしょりと汗で濡れて絞れる様な有様で、それでも立場上、だらしない恰好をしている訳にもいかなくて、本当に気が遠くなったりしていた。自分で選んだ立場とはいえ、あの時ほど他の連中を羨んだことはない。褌一丁で頭からざぶざぶ水をかぶって涼んでる新八やら左之助には、正直、殺意の様なものが芽生えたもんだ。ちくしょう、俺だって川に飛び込んで涼みたかったぜ。 思い返せば怒涛の様な一年だったが、それもあと数日だ。あと数日で今年も終わる。京で迎える、初めての正月が来る。考えなくっちゃならねぇことは山積みだが、それでも正月を迎えるとなれば、どこか心が浮き立つのを抑えられない
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