春帰留不得
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サイズ:A5 形 体:コピー 頁 数:24頁(表紙込) 発行日:2024.12.30 たまには春の話。蓬摘みにいく沖田さんと斎藤さんの話ですが、もちろん土方さんも出てきます。京で迎える初めての春、位かな。まだ若干のんびり気味。
春帰留不得
棚から盆と皿を取り出し、買ってきた天ぷらを皿に載せ、箸を添える。 一膳、少し迷ってもう一膳。 以前、一膳だけ添えて差し入れをした時に、土方に盛大に顔を顰められた。曰く、 『あのな、幾ら貰ったのが俺だからって向かいに居るお前を差し置いて自分だけ食うっての は食いにくいんだよ。毒見じゃねぇんだから、ひとつっ位はお相伴に預かる位はしろよ』 との事。まあ己に置き換えれば納得も出来る話だったから、それ以降は自分の分も含めて買い、ひとつは付き合う様にしている。が、そのことに何となく躊躇いというか、戸惑いというかがないという事ではないのだ。共に卓を囲むのを許されるような、そんな関係なのだろうか、そう思って。まあそんな事を口にすると拳固を落とされそうなので黙っているのだが。 盆を持って土方が籠っている執務室に向かう。茶は行く先で用意されるから持参はしない。 酒をほとんど嗜まない土方が己に許した唯一の贅沢が茶で、一年中出しっぱなしの火鉢にはいつも鉄瓶が掛けてある。夏にはさすがに火は入れないけれど、それ以外の季節には何時もそこで湯が沸いていて、何時でも茶が飲める様になっているのだ。 呼ばれた者、訪れた者、全てに茶は振舞われるけれど、前者の場合、大体緊張のあまり、口を付けないものがほとんどだと土方が苦笑いしていたのを思い出す。逆に、その時に普通に口をつける位の度胸がないと、その後に頭角を表す様にはならないとも言っていた。 もっとも沖田や井上達、なじみの者は普通に茶を飲みに押しかけてくるんだけどな、そうも言っていたけれど。