お后さまは大脱走
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最近の城下での噂は、年頃になった皇太子様の事である。 そろそろ婚姻の話も上がってきている… … と噂混じりに囁 かれていた。確かに、 17になった義明には、山のような縁 談が舞い込んできている。大体が他国の王女であり、エチ ゴとの縁戚を狙っての婚姻だ。 王族が 17で婚姻、は決して珍しくない。市井でも早めだ が、すごく珍しい事でもないのだ。 一国の皇子として生まれた場合、生まれて直ぐ、と言う か生まれる前から后が決まっていても普通なのだ。だから 今だ全く、愛妾はおろか正妃候補も決まっていない状態に、 臣下達に焦りを感じている。 そんな状況下、当の本人義明はと言うと、 「うーん、まだいいです」 と、いたって暢気なのだ。色部や八海の胃が痛むのも尤 もだった。 「なぁ」 「ん?」 白い紙にサラサラと何かの絵を描いている第二皇子の横 に、皇妃はよっと、と腰を下ろす。 ここは王宮の中庭で、高耶がずっと気に入っている場所 だ。当然幼い頃から2人の皇子も入り浸っている。そこで 第二皇子である三郎は絵を描いていた。 小さい頃から絵を描くのが好きだった皇子は、今では画 家顔負けの絵を描く。本人も政務、政治よりも絵画などの 芸術方面に興味を持っていた。皇太子である義明は、もう 数年前から父王、直江の右腕となって政務をこなしている。 好みも性格も正反対の2人だが、今も昔も兄弟仲はとても 良かった。 「義明の事だけどさ」 「… … 」 手を動かしたまま、顔も絵を見たままで三郎は頷く。 「あいつ… … 結婚すんの嫌なのかな」 親としては、当然子供達の幸せを願っている。なので2 人には、幸せな結婚、をして欲しい、当然だ。だから義明 本人が気が乗らないのなら全然構わないのだ、が、 「いやー慌てる必要も無いと思うんだけど、まだ 17だし」 17と言えば高校生、婚姻とか正妃とか… … 自分が 17の時 を思いだし高耶は溜息を吐く。 「… … 」 考えらんねぇ… …「昨日もシナノの皇女とのほら、話断っちゃっただろ?」 シナノの第一皇女と言えば、美女で名高い姫だ。縁談な んて、アチコチから申し込みされまくっている。そんな姫 が気に入ったのは義明だった。 まぁそれに関しては当然と言うか。 親の欲目抜きに、義明は女から見れば、最優良物件だ。 顔は父王直江譲りのとんでもない男前、しかも、ここは全 然似なかったのだが、穏やかで物腰が柔らかい。レディフ ァーストがスマートに出来る男。しかも、何と言っても大 国、エチゴ大帝国の次期皇帝。 確かに義明以上に〟美味しい〝縁談相手はいないだろう。 自分に自信がある姫君達が挙って正妃に立候補したもの、 無理もない。例え、 「女遊びが出来なくなるからじゃないのか?」 三郎、サラッと一言。 「… … 」 そう、城内外、浮名を流しまくっていたとしても。 「うーん… … 」 唸りながらゴロン、と高耶は草の上に寝そべった。 「いや、いいんだけどさぁ」 高耶も男だ、気持ちは分かる。 10代と言えば、ヤりたい盛りだ。 まずヤりたい、とにかくヤりたい、とりあえずヤりたい。 そんなお年頃。だが、義明には〟立場〝がある。 「大丈夫だよ高耶」 そんな高耶の心配を読んだように、三郎はポツリ、と言 った。 「あいつ要領いいから」 「… … 」 流石兄弟、よく分かってらっしゃる。 「うーん」 どっかでヘマして孕らましたりでもしたら… … 義明は無 論、相手の女も大変だろ?そう高耶が言うと、三郎は紙か ら顔を上げる。 「それは無い」 キッパリ 「義明だし」 更に言い切る。 「… … 」 コロコロ転がる高耶は再び、コロコロ転がり元の場所へ。 「… … なぁ」 「何だよ」 「… … あいつさ… … 結婚すんのやっぱ嫌なのかな」 「そんなのは義明に訊けばいい」 「うーん、でもさぁ」 笑顔でサラリ、とかわされそうだ