お后さまは大奮発
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32P 八海が廊下を歩いていると、1人の侍従と擦れ違っただけで、護衛の兵などの姿は一切見なかった。だからと言って警備が手薄な訳ではない。ここは休息の為の場所だ、なので出来るだけ衛兵や家来のいない〟守られている〝と思わせない、危険を感じさせない環境が作られている。 高耶から、八海の希望は出来る限り聞くように、と命じられている離宮の使用人達に囲まれ、宰相は主のように扱われていた。それがまた八海を疲れさせていた。 そう言えば、あの議題についての陛下の返答はどうなっただろうか…… 高耶の命令とは言え、思考までは自分でもコントロール出来ない。どうしても頭は政務へ向かってしまう八海はふと足を止めた。 「ん?」 離宮は小規模でこじんまりしている。直江を呼びに来たり政務についての指示を伺ったり、そんな〟遣い〝でしか来た事がない離宮だが、八海は思いの他居心地の良い所だと感じ入るのは事実なのだが。だからと言って…… 「……」 目の錯覚ではないのか?老宰相は思わず目を擦ってしまった。 「……な……」 通りかかった厨房の中を、覗き込んだ訳ではない。ふと視線を流した先にあったのだ、その光景が。 「……な……な……ッ」 何度か目を瞬いた後、見る見る八海の形相が変わっていった。そして、 「…………高耶様――――ッ!」 「へ?」 突然の大声に、高耶は驚いて振り返った。 「あ」 「あ、じゃありませんッ!一体ここで何をなさっているのですかッ?!」 ズカズカと厨房に入ると、調理台の上で何か生地を捏ねている高耶の前で止まった
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