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GRANADA
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直江が見付かった、しかも記憶を失くしている…… 綾子からの報告は、高耶を地獄に叩き落す。だが一方で安堵しているのは『内部』にいる景虎か。 『景虎』が安定しない高耶は自分でも、現在の己の状態に全く気付いていない。そして直江と対面するのだが…… 原作設定……な気もするけど全然違うとも言える リシアス・破滅・30年前 50ページ コピー本
もしも、高耶ではなく直江が記憶を失くしていたら―――
「おい」 不思議と肌が粟立つ感覚に、高耶は苛立ちを顕にする。そんな主君の怒りにも、綾子の〟拙いものを見てしまった〝そんな顔色は変わらなかった。 「姉さん」 「……」 2度呼ばれ、綾子はのろのろ顔を上げる。その動作は正に、仕方なく、と言った態だ。そして嫌なものを見るように高耶を眺めている。 実際綾子も迷っていた。 〝迷う〝と言う行為は好きではない。当然殆どした事はなかった。迷っても迷わなくとも結果は変わらない。だったら、そんな時間は非常に効率的では無いではないか。 そんな綾子に比べ、主君である高耶はよく迷った。 しょっちゅううだうだぐるぐると、〟迷う〝事が趣味なのか?と綾子が思ってしまう程。そこには明らかな原因があるので仕方がないと思うが、それでも鬱陶しい事には変わらない。 そして綾子は今、実際迷っている。そんな自分がもどかしく、無意識に自嘲を浮かべてしまった。 「おい」 「ああはいはい、報告ね報告」 はー…… あからさまに溜息を吐き、綾子はガラッと纏う雰囲気を変化させた。 そこに、開き直り、を見たのは間違いではないだろう。 「何かあったのか……あったんだな?」 問い、ではなく確認をしてくる主君に綾子は鷹揚に頷いた。 「あったわよ、大した事じゃないんだけど」 「おい」 馬鹿にされる感が伝わってきた高耶は険しい顔になる。だがそれが通用する相手ではない。 「ぶっちゃけ言いたくないけど、どうせ後でバレるだろうしね」 あの軒猿調伏しとけばよかった、などとぶつぶつ物騒な事を呟いているが、それが冗談じゃないのが綾子の恐ろしい所だ。 「あのね」 「何だよ」 勿体ぶった態度に、高耶は荒い声を出す。 それに綾子は初めて嗤みを浮かべた。 ニヤリ そんな音がしそうな嗤いに、高耶の不快感は頂点に達する。 「おい」 一段と低くなった声に鬱陶しそうに肩を竦めると、綾子は吐き捨てるように告げるのだ、 「直江が見付かったから」 「は?」 言葉の意味が把握出来ない高耶は眉根を寄せて怪訝な顔を、 「――――――ぇ」 生憎高耶は日本語が理解出来る。 だから一拍置けば、どんな言葉も意味を把握してしまうのだ。 直江―――― そうか 遠くにぼんやり聞こえた声は、実際は高耶の口から零れていた。 「そう、か」 「……」 色と動きの一切が消え、それはまるで能面の如く。 「……」 そんな高耶を綾子は注意深く観察している。 「そう、なんだ」 「そ」 「……ふーん」 動揺以前に高耶は、自分の中に渦巻く感情を飲み込むのに必死だった。 直江 直江 直江 直江 「直江が」 「そう、直江がね」 綾子の探る眸も目に入っていない高耶が見ているのは、一体何なのか。 「直江が」 「……」 ポカーンとした顔は、傍から見れば呆けているようにしか見えなかった。 高耶のこの状態をどう分析すればいいのか、綾子には分からない。 景虎ならいざ知らず、これは高耶なのだ。 未熟で単純な子供の心理が読めない自分に苛々する。 未熟で単純…… 「……」 そこまで考えて、綾子の中で不信が生まれる。 果たして、果たしてどこまで―――? ひゅう 極寒の風が二人の間を吹き抜ける。 凍える寒さの中、不思議な主従は長い時間動きを完全に停止していたのだった。