星を仰ぐもの(上下巻一括)
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サイズ:スマホ、タブレット表示用書式(一段組) ページ数:681ページ 本書では、原作外伝幼年学校殺人事件の直後、『千億の星、千億の光』の直前、ラインハルトとヤン・○ェンリーの経歴の空白時期を使い、ヴァンフリート星域を舞台に、ラインハルトとヤン、そしてシュミットバウアー兄妹……特に兄ヨハン・クレメンツを中心に、彼らの戦いを描き、同時にラインハルトが大佐から准将に昇進する経緯を併せ描く。 ラインハルトは大佐であり、重巡航艦『ノルデン7』の艦長を務めている。そんな彼に命じられたのが、ヴァンフリート7-4(ヴァンフリート星系第七番惑星の第四衛星)上に建設された帝国軍基地への増援だった。ラインハルトの力量からすれば易々と果たされるべき任務に、想像を絶した困難さをもたらしたのが、この当時、同盟軍第八艦隊の作戦参謀としてアップルトン中将麾下に入っていたヤン・○ェンリー中佐の存在だった。基地救援を目指す帝国軍の作戦を、さながら掌を指すように読み抜き、その裏を掻いていくヤンの存在に、ラインハルトですら続けざまに意表を突かれ、ついに僚艦僅か三隻と共にヴァンフリート8(第八惑星)の外惑星環に追い詰められることになるのだが…… この時、ヴァンフリート7-4基地の指揮を執っていたのがヴィンフリート・フ○ン・リーフェンシュタール准将である。大貴族の子息として、『軽薄貴公子』とあだ名されるほどの浮薄な生活を享受していた彼を、最前線の基地司令官……わずか5000人の将兵と共に、一〇〇万人以上の兵力を擁する同盟軍第八艦隊に対抗する絶体絶命の任務を志願させた、その最大の理由こそ、士官学校の同期生にして最大の友人たるヨハン・クレメンツ・フ○ン・シュミットバウアーと、彼の妹にして彼の最愛の人となるコルネリア・ゲルトルーデにほかならなかった。そして、ラインハルトとともにヴァンフリート8の外惑星環に追い詰められた三隻の巡航艦、その内の一隻を指揮していたのがヨハン・クレメンツだった。 『ゲルタ(コルネリア・ゲルトルーデ)に似合うのは喪服にあらず、花嫁衣装なり』 ヨハン・クレメンツからの通信に、ヴィンフリートは莞爾として頷き、基地の死守と無事の脱出を誓う。
物語の前の短いプロローグ
ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが登極し、銀河帝国皇帝として至尊の冠を我が頭(こうべ)に戴くまでの間、その傍らにあって常に身を挺してルドルフを守り続けた側近の姿がある。十数度にもわたる暗殺の試みの中、ルドルフの身に達しかけた暗殺者の刃の多くが、この側近によって防ぎ止められた。 帝国暦九年、大帝ルドルフが公表した『劣悪遺伝子排除法』は、ほとんど絶息しつつありながら、なお余喘を保っていた旧共和派を反ルドルフへの統一した勢力に追いやる結果を招いた。断固とした弾圧による反対派の根絶を主張する内務尚書ファルストロングに対して、意見を求めたルドルフに彼は『内務尚書の主張は、陛下の御名を、血文字で歴史に刻めと主張するがごときもの』と応えてその不興を被り、御前を退けられた。 ファルストロングを見舞った共和派テロリストの襲撃は、ひとり社会秩序維持局長だけを狙ったものではなかった。時を同じくしてルドルフを狙い、中性子爆弾を携えていた共和派の暗殺者は、自爆のスイッチを押す寸前に制止され、帝国暦を二桁の間に停止させる機会を永久に失ったのである。そして、間一髪のタイミングで暗殺者を射殺したのが、一度はルドルフの腹心の一人としての座を追われた、彼の側近に他ならなかった。 亡きファルストロングに伯爵号を与える一方で、ルドルフは彼が一介の士官に過ぎなかった時代からの支持者である、この側近の功を改めて賞した。 「姓としてシュミットバウアーを与え、侯爵に叙する。今後も帝室のため、身を挺せよ。我が帝室は、シュミットバウアー侯爵家からの進言を常に貴重なものとして受けるであろう」 シュミットバウアー侯爵家……後に男爵家……を、数百年にもわたり『帝室への意見番』なる地位に呪縛した、それが大帝ルドルフの言葉だった。